「宇宙から見ると地球がどう見えるかと言うとね‥‥」飛行士は言った。「まるで黄金の球のように見えるのさ。」
「えっ?」と私は訝しげに応えた。「地球はブルーではないのですか?」
実際に宇宙から帰還したその飛行士の言葉に、私は小学生のような質問をした。
「はっ、はは‥」飛行士は、謎を掛けるように続けた。「地球が青いだって? 君も騙されている多くの人間の一人に過ぎないのか‥。」
「騙されているって、宇宙から撮影された写真では、海の青と白い雲と‥。地球という星は、それは美しいブルーにしか映っていないけど、では、あの写真は嘘だとでも言うのですか? 」
飛行士は、首を横に振りながら、絶望的な眼差しを空に向けて、そんな質問に答えるのも億劫だといわんばかりの態度をしてから、しばらく沈黙していた。
そしてぽつりと言った。「君が見たことのある地球の写真はね、捏造されたものなんだ。あれは、コンピュータが創った想像の産物だよ。本当の地球はね‥黄金、いや正確には、赤茶けて、砂が舞うようにくすんでいる焼け爛れた球にでしかないのだよ。宇宙から帰還した飛行士が、一様に沈黙すのが何故だか、君は考えたことがあるだろうか?」
「そんな馬鹿な。‥‥でも、実際、海もあるし、空は青いし、雲も流れている。」 彼が飛行士でなければ、こんな話は冗談にもならない空想話だと一蹴してしまうのだが、宇宙から見てきた本人が言うのだから、どこかに信憑性があると思い込んでしまうのが不思議だ。
「それであなたは何を見てきたんですか ? 」
私は飛行士がまだ本質的なことを話ていないと悟って、こんな質問をしてみた。すると‥。
「では、教えてやろう。仕方ないな‥。
宇宙に流れている時間は、地球で人間が概念的に捉えている時間とは違う。宇宙に行くと、時間は過去、現在、未来と様々に移動してしまう。私は、この宇宙にある時間の穴に一瞬落ちてしまったのだよ。そこで、未来の時間に転移したときに見えた地球は、既に青を失い、赤茶けた姿になっていたのさ‥。その未来が、現代から考えていつなのかは分からない。どのくらいの時間が経過したのかも分からない。しかし、私は確かに地球の未来を見てしまったのさ。」
‥‥‥
「佐々木さーん?」 遠くから看護師の女性が飛行士を呼んでいる声が聞こえた。「ああ、ここに居たんだ。そろそろ病室に戻る時間よ。さぁ、行きましょう。」
肘を支えるように促して、飛行士は病棟に連れて行かれようとしていた。看護師の女性は、ふと振り向くと私に言った。「明日も、来ていただけますか?」