杉山八郎さんのぺん画に酔いしれる 消え去る下町の風情を描いて | 考える道具を考える

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The instrument which I think

杉山八郎
 東京の下町。根津、谷中、上野、佃、根岸あたり。

 ペン画という手法で、緻密なスケッチを落としていく杉山八郎画伯の作品と出会ったのは、数年前でしたか‥。その細密画に込められた消え去りゆく町並みの絵は、一気に私の感性を刺激したのでした。

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 アメリカから来たギル・ゴードン氏と福島県いわき市に旅する時、私はこの杉山八郎画伯のペン画の絵葉書をプレゼントした。彼は、ベジタリアンで典型的な自然派なので、本当に喜んでくれた。どんなプレゼントよりも、こうした日本を感じさせてくれるぺん画が一番のプレゼントだと‥。

 旅の車中、彼は、流れ行く東北の風景に目をやりながら、時々、その絵葉書に目を落としていた。じっとしていて、静かな「旅」の時間が流れていたことを今でも新鮮に思い出す。

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 写真は杉山画伯が描いた根津「はん亭」という串揚げ屋さんのたたずまい。

 今でも、このままの三階建て家屋は健在で、私も時々足を運ぶ。

 ペン画の繊細な筆致。杉山さんは日本エアブラシ界の大御所であったが、バブル崩壊とコンピュータグラフィックの急速な発展により、デザイン業界の転換を体験。その結果、このペン画を始めたとされている。その小さなスケッチの蓄積が、今や多くの人々の感動と共感を呼んでいる。

 写真にとれば一瞬。写真の良さももちろんある。しかし、こうしたぺんで時間をかけて描かれた日本の下町の風景は、リアルな写真とは位相が異なる、記憶に刻まれる「別の世界」を感じさせてくれるものですね。脳に刻まれたリアリティには情緒がある。

 この連休は、都内の下町で、小さな旅の感覚を味わっています。