脳と仮想 茂木健一郎著 文庫版を考える | 考える道具を考える

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茂木脳と仮想
 「脳と仮想」(茂木健一郎著 新潮文庫 2007年4月1日発行)が文庫となって登場した。

 なんと、値段が税込み460円なのだ。

 実質的に茂木先生をメジャーデビューさせたと言っていいこの著作(小林秀雄賞受賞)が、文庫版になるということは大変喜ばしいことだが、何故か、その値段に再び驚いたのでした。

 肝心な内容について感動するのではなく、この本の値段について感動するというのは、どうしたことだろう?

 どう考えてもこの著作が、500円以下の値段で購入できる内容のものではなく、その質、量ともに、1000円とされていたとしても文句なく購入することは、誰でもが首肯するところだと思うからだ。

 ‥‥

 そういえば、30年ほど前に、初めて思想に関する著作物を手に取った時のことを思い出した。それは岩波文庫であり、岩波新書であった。その値段は、100円とか150円、新書で確か170円くらいだったと記憶している。

 当時の学食のカレーライスの値段が100円くらいだったから、例えばマルクスの「賃労働と資本」やオスカーワイルドの「サロメ」の文庫本と一回のカレーライスの価値が同等のものであることが信じられなかったのも事実でありましたね。

 今、この脳と仮想の文庫版を手にとって、しかしながら現代でも、460円あれば牛丼や富士そばは食べられるわけで、文庫版の値段とお手軽なランチの値段が同一の価値で並んでいることに相違ないのかと、妙な部分で感心していたのでした。

 しかし、この著作は、サンタクロースという言葉によって触発された「クウォリア」の世界が、一度に30年時空を超えて、思想の価値を与えてくれたように思えたのでした。私にはね‥。

 ‥‥一つのイメージや概念の背後に、広大無辺なる世界が広がっていることが直覚されることがある。そのような端緒をつかめた瞬間は、いかにも生きているという実感があるし、また大いに奮い立ちもする。‥‥

 茂木先生は、文庫版のあとがきにこう書いています。著作物というのは、その内容はともかく、それ自体に価値を見出したとき、時代を見るどのような尺度にもなるのだと、私のクウォリアは捉えたのかもしれません。