すでに読了後3カ月も経ってしまったけれど、一応「備忘録」として記録しておく。23年の読書22冊目で同年最後の読了小説は、23年12月27日(水)の『検事の死命』(柚月裕子。恩田陸解説。角川文庫)
電車内で女子高生に痴漢を働いたとして会社員の武本が現行犯逮捕された。武本は容疑を否認し、金を払えば示談にすると少女から脅されたと主張。さらに武本は県内有数の資産家一族の婿だった。担当を任された検事・佐方貞人に対し、上司や国会議員から不起訴にするよう圧力がかかるが、佐方は覚悟を決めて起訴に踏み切る。権力に挑む佐方に勝算はあるのか(「死命を賭ける」)。正義感あふれる男の執念を描いた、傑作ミステリー。(裏表紙「粗筋」)
「第一話 心を掬う」
郵便物が届かないという話が相次いだ。
投函忘れじゃないの~程度に思った担当検察官・増田陽二事務官に、届かなかったという郵便物について詳しく調べるようにと佐方貞人が言う。届かない時期を気にした佐方だったが…
佐方の、罪を立件するためなら何でもするというプロ意識の高さに、頭が下がる増田。
「第二話 業をおろす」
佐方の父・陽世の十三回忌。
佐方は、父がなぜ自ら進んで実刑を受けるような真似をして、服役中に亡くなってしまったのかの真相を、陽性の親友でもあった住職に聞き、弁護士としての父の想いを知った。
職業倫理と社会的正義の間で板挟みになり、悩みに悩んだ陽世の決断。
一生かけても恩は返すべし、約束は守るべし……それが佐方家の総意である。
陽世の両親であり、佐方貞人を育てた祖父母もまた、見事。
『検事の本懐』収録の「本懐を知る」完結編。
「第三話 死命を賭ける 『死命』刑事部編」
「第四話 死命を決する 『死命』公判部編」
痴漢行為により迷惑防止条例違反容疑で逮捕された武本弘敏は、県内有数の名家の婿で、政治家や法曹界の重鎮に知り合いも多い。
対する被害者・仁藤玲奈は母子家庭で育ち、万引きや恐喝容疑で補導されたこともある女子高生だ。
2人の主張は真っ向から対決。
武本側のお偉方からはいろいろ圧力がかかるが、佐方は玲奈の話にも真剣に耳を傾けとことん調べる。
「罪をまっとうに裁かせることが、己の仕事」を貫く佐方に、脱帽の増田。
日本の検事のほとんどが佐方のようであったなら、政治屋たちも今ほどのんべんだらりと好きな金儲け算段ばかりやってはいられないんじゃないのかと思う。
「秋霜烈日の白バッジを与えられている俺たちが、権力に屈したらどうなる。世の中は、いったいなにを信じればいい」
検事のみなさん、頑張ってちょうよ!
ゆづき・ゆうこ=1968年5月岩手県釜石市生まれ。08年『臨床心理』で第7回「このミステリーがすごい」大賞を受賞し40歳で作家デビュー。13年『検事の本懐』(24.3.14記)で第15回「大藪春彦賞」を、16年『孤狼の血』シリーズ3部作の第1作『孤狼の血』で第69回「日本推理作家協会賞」長編及び連作短編集部門を受賞。『最後の証人』(23.1.09記)、『慈雨』(23.2.28記)