目の前には、単車事故で手ひどい重傷を負った息子が横たわっていた。
ここ集中治療室のベッドの周囲には、私を含めて一族郎党、ほとんどが集まっていた。
医者からは「臨終までは時間の問題です」といった内容のけがの状況説明を受けたばかりだった。
父がうめくようにつぶやく・・・
「変わってやれるものならそうしてやりたい」
私は
「ほー、例によって大きく出たじゃないか!」
すかさず家内が、
「お義父様にあんまりじゃない」
「いや、親父はおチョーシ屋さんで、その場が丸くおさまればそれでいいと思って、日頃からあまりにも軽々しい発言が多すぎる。いまのだってきっとそうだ。」
「おまえ、親に向かってそのもののいいようはなんだ。私が孫の体を心配すれば、このくらいの言葉は、自然に出る。他の祖父であれば誰だってみな同じだろうさ」
「本当に、その気持に、嘘偽りはないんだな?」
「おまえも、相変わらずしつこいやつだな・・・」
「それが取り柄だと自分では思っているがね。」
私は親族に向かって「皆さんも親父の今の言葉お聞きになりましたね?」
一同、首を縦に振る。
私は、ナース・ステーションの奥に向かって、
「先生、看護師さーん。父が息子のために全臓器提供を申し出てくれました。体質が合うかどうかの検査をまずお願いします。」
奥から屈強な男性が二人出てきて、両脇から父を抱え込んで連れ去っていった。
父の体は完全に宙に浮いていた
父は何やら叫んでいたが、恐らく私の言っている意味が分からずパニックになって、いろんな罵詈雑言をわめきちらしているにちがいなかった・・・
202X年・・・・移植の臓器提供数が一向に伸びないことに業を煮やした内閣府、厚生労働省は、何らかの形で、本人から臓器提供の意思ありと口頭でも同時に2人以上の証人があれば、「全臓器移植」が成立との法案の公布を半年前に行っていて、今日がその実施日だったのだ。
私は父はそのことを忘れているか、しらないかどちらかだろうと考えていたが、やはり、あたっていたらしい・・・
恐らく、今回のことくらいでは、本人に「臓器移植の意思がある」などとは、裁判所も保険会社も認めてはくれないだろう。
理屈はよくわかっていますよ、ソリャ・・・