私は弱い。
逃げてばかりだ。
すこし痛いことがあるとすぐに逃げ出す。イタイ怖い。
私と言う人間を他の人が「しっかりしてる・がんばってる」と思うから、頑張れるだけで、そう思われたら頑張るしかなくて、そのうち頑張れなくなる。疲れてしまう。
でも最初に頑張り始めたのは、紛れもなく私なのだ。誰かに言われて動いてるわけじゃない。
ちょっとでもいい。前に進みたい。一生外野が気になる小さい人間だけど、外野が気にならなくなったら、それもそれで問題だ。
大丈夫。誰だって怖い。
外を歩く人がみんな「怖い怖い」と言ってるわけではない。家で言ってるのだろう、こうして一人パソコンの前は、お風呂で。
目に見えないからといって、皆そうだとは限らない。
人の顔の後ろにも、きっと顔はある。見えてないだけだ。
はじめてついた嘘は小さなものだった。
「あれ。アンズカフェ行ったんだ。またケーキ食べてる」
机のうえに放置したレシートをみて旦那が言った。
「ミホと行ったの。食べたいってうるさくて」
小さな嘘。なんでこの時、私嘘いったのかなと思うほど、まだ彼のことを好きではなかった。でも嫉妬深い旦那に、会社の後輩と二人でケーキを食べたといったら誤解するかも知れない。そんな思いで言った。
次の嘘はすぐ後に。
「来週の土曜日、仕事になっちゃった」
そうか仕方ないね。旦那は振り返らずに言ったけど、嘘。彼が仕事で関係ある展覧会があるから一緒に行かないか?と誘ってくれた。仕事に関係あることだし、でも旦那にいうと説明が面倒くさい。私が大好きで子供も産まずに続けたいと思ってる仕事にも興味もないし。その帰り道、彼が手をつないできた。既婚者ですよ~と笑いながら言ったら「知ってます」と抱きしめられた。髪の毛の香り。男の人の分厚さ。旦那とはずっとセックスレスで抱き合うこともしてなかった。背中をはう大きな手に後輩という事を忘れて身を任せた。
「おかえり」
そう笑う旦那に私はお土産のプリンを顔の位置まで持ち上げてほほえんだ。疲れちゃった、食べよ?
プリンを食べながら、私は嘘をたくさんついた。
データの納品が遅くてね。素材が悪くてイヤになった。時間だけがかかるよ。一歩も外に出れなかった。昼間は暖かかったの?
一歩も外に出てないのは旦那だろう。インドアな人だから、私がいないとどこにも行かない。「どうかな。ずっと寝てたから。ご飯は?」うん、作る。旦那のそばを離れられることに安堵して台所にたった。うん、ばれてない。
つく嘘がこれからも増えると確信した私は、手帳についた嘘をメモしはじめた。今日は仕事。素材遅れた。プリン買ってきた。
はじめてのお泊りは仕事で徹夜になった日。よく仕事で会社に泊まる私にとって、家に帰らないのはおかしなことじゃない。ひさしぶりに感じる男の人の手は、気持ちよくて。旦那が絶対に言わない愛の言葉に震えた。
そしてまた手帳に書いた。仕事で泊まり。素材待ちで編集室でピザ。おいしくなかった。
嘘をつくたび手帳に書いた。今日は取材で旅行。熱海で撮影。仕事で泊まり。編集進まず。仕事で出かける。箱根で写真撮影。
そのたびに彼とSEXして、私って仕事もできて男の人にもモテて旦那もいる。幸せで人生満喫してる。そんな矢先、大きな仕事を外された。部長に言われた言葉は
「最近出来が悪い。どうしたの?」
どうしたも何も。仕事じゃなくてSEXしてたのだ。進むわけがない。
来月の仕事がカラになった。私を肯定する一番大事な場所が崩れた。
私は手帳をみていた。
ずっと仕事をしてる手帳の私。
本当にこれくらい仕事してたら、こんな気持ちにならなかったのかな。その代わりに何を得たかな
「あれ。アンズカフェ行ったんだ。またケーキ食べてる」
机のうえに放置したレシートをみて旦那が言った。
「ミホと行ったの。食べたいってうるさくて」
小さな嘘。なんでこの時、私嘘いったのかなと思うほど、まだ彼のことを好きではなかった。でも嫉妬深い旦那に、会社の後輩と二人でケーキを食べたといったら誤解するかも知れない。そんな思いで言った。
次の嘘はすぐ後に。
「来週の土曜日、仕事になっちゃった」
そうか仕方ないね。旦那は振り返らずに言ったけど、嘘。彼が仕事で関係ある展覧会があるから一緒に行かないか?と誘ってくれた。仕事に関係あることだし、でも旦那にいうと説明が面倒くさい。私が大好きで子供も産まずに続けたいと思ってる仕事にも興味もないし。その帰り道、彼が手をつないできた。既婚者ですよ~と笑いながら言ったら「知ってます」と抱きしめられた。髪の毛の香り。男の人の分厚さ。旦那とはずっとセックスレスで抱き合うこともしてなかった。背中をはう大きな手に後輩という事を忘れて身を任せた。
「おかえり」
そう笑う旦那に私はお土産のプリンを顔の位置まで持ち上げてほほえんだ。疲れちゃった、食べよ?
プリンを食べながら、私は嘘をたくさんついた。
データの納品が遅くてね。素材が悪くてイヤになった。時間だけがかかるよ。一歩も外に出れなかった。昼間は暖かかったの?
一歩も外に出てないのは旦那だろう。インドアな人だから、私がいないとどこにも行かない。「どうかな。ずっと寝てたから。ご飯は?」うん、作る。旦那のそばを離れられることに安堵して台所にたった。うん、ばれてない。
つく嘘がこれからも増えると確信した私は、手帳についた嘘をメモしはじめた。今日は仕事。素材遅れた。プリン買ってきた。
はじめてのお泊りは仕事で徹夜になった日。よく仕事で会社に泊まる私にとって、家に帰らないのはおかしなことじゃない。ひさしぶりに感じる男の人の手は、気持ちよくて。旦那が絶対に言わない愛の言葉に震えた。
そしてまた手帳に書いた。仕事で泊まり。素材待ちで編集室でピザ。おいしくなかった。
嘘をつくたび手帳に書いた。今日は取材で旅行。熱海で撮影。仕事で泊まり。編集進まず。仕事で出かける。箱根で写真撮影。
そのたびに彼とSEXして、私って仕事もできて男の人にもモテて旦那もいる。幸せで人生満喫してる。そんな矢先、大きな仕事を外された。部長に言われた言葉は
「最近出来が悪い。どうしたの?」
どうしたも何も。仕事じゃなくてSEXしてたのだ。進むわけがない。
来月の仕事がカラになった。私を肯定する一番大事な場所が崩れた。
私は手帳をみていた。
ずっと仕事をしてる手帳の私。
本当にこれくらい仕事してたら、こんな気持ちにならなかったのかな。その代わりに何を得たかな
大人はみんな「嘘をついちゃいけない」て言う。
でもそれって本当かな。嘘にはきっと理由がある。
私が小学校から高校まで居た家は団地で、大きな白いこんにゃくみたいな建物が沢山ならんでる場所だった。私はその団地の6号棟301号室に住んでいた。
「一緒にいこ」
毎日誘いにきてくれる友達のみぃは目の前の部屋302号室に住んでた。同じ小学校で同じクラスで同じ団地。一人っ子どうしの私たちはすぐに仲良くなった。お姉ちゃんが欲しかったねとか、妹がほしいねとか、お母さんのお料理が失敗したとか、好きな男の子の話とか。毎日何時間はなしても足りなかった。
でもたびたび、隣の部屋からみぃちゃんのお母さんの鳴き声が聞こえた。聞きたかったけど聞けなくて、ずっと気になってたある日。ママに言われた。みぃちゃんのお母さん、家から出たから。これから何かあったらウチも助けてあげようね。
お母さんが出て行く。
そんなの考えたこともなかった。じゃあ朝は誰が起こしてくれるの? ご飯は? 髪の毛は誰が三つ編みにしてくれるの? みぃちゃんのお父さんなんて、一回くらいしかみたことない。白い木みたいなヒョロヒョロした人。あの人とみぃちゃんだけになるの?
「一緒にいこ」
そう聞かされた次の日もみぃちゃんは変わらなくて、私は困った。でもみぃちゃんが何も言わないから、言うのをやめた。
そこらへんから、みぃちゃんはイジメられた。
「お母さんに捨てられた!」
「不倫でしょ、不倫」
「ゴミみたいに、ぽーい!」
それが本当なのか嘘なのかわからない。私はみぃちゃんと一緒にいようと決めた。だってお母さんが出て行ったなんて悲しすぎる。それで私もいなかったら悲しすぎる。イジメられてる子と一緒にいるとイジメられる。もうそれは、バケツの下にいたから水が流れてきたのと同じように。みぃちゃんは何度も言った。
「離れて。一緒にいるとイジメられちゃうよ。みぃは大丈夫」
本当は泣きたいくらい苦しかったけど、絶対離れなかった。こんなの間違ってる。
ある日、団地の外でみぃちゃんのお父さんに会った。
「みぃはイジメられてないか?」
私は嘘をついた。
「イジメられてない」
そうか、ありがとう。小さく言ってみぃちゃんのお父さんは階段の闇に消えた。
それから数日後、みぃちゃんが言った。
「引っ越すことになったの。おばあちゃんの家に」
悲しくておいおい泣いた。何も残らなかった。私は何もできなかった。
ありがとうと言ってみぃちゃんは去った。
大人はみんな「嘘をついちゃいけない」て言う。
でもそれって本当かな。嘘にはきっと理由がある。
あの嘘は正しかったのか、間違ってたのか判らないけど、本当のことを言うのはイヤだった。ただそれだけ。
でもそれって本当かな。嘘にはきっと理由がある。
私が小学校から高校まで居た家は団地で、大きな白いこんにゃくみたいな建物が沢山ならんでる場所だった。私はその団地の6号棟301号室に住んでいた。
「一緒にいこ」
毎日誘いにきてくれる友達のみぃは目の前の部屋302号室に住んでた。同じ小学校で同じクラスで同じ団地。一人っ子どうしの私たちはすぐに仲良くなった。お姉ちゃんが欲しかったねとか、妹がほしいねとか、お母さんのお料理が失敗したとか、好きな男の子の話とか。毎日何時間はなしても足りなかった。
でもたびたび、隣の部屋からみぃちゃんのお母さんの鳴き声が聞こえた。聞きたかったけど聞けなくて、ずっと気になってたある日。ママに言われた。みぃちゃんのお母さん、家から出たから。これから何かあったらウチも助けてあげようね。
お母さんが出て行く。
そんなの考えたこともなかった。じゃあ朝は誰が起こしてくれるの? ご飯は? 髪の毛は誰が三つ編みにしてくれるの? みぃちゃんのお父さんなんて、一回くらいしかみたことない。白い木みたいなヒョロヒョロした人。あの人とみぃちゃんだけになるの?
「一緒にいこ」
そう聞かされた次の日もみぃちゃんは変わらなくて、私は困った。でもみぃちゃんが何も言わないから、言うのをやめた。
そこらへんから、みぃちゃんはイジメられた。
「お母さんに捨てられた!」
「不倫でしょ、不倫」
「ゴミみたいに、ぽーい!」
それが本当なのか嘘なのかわからない。私はみぃちゃんと一緒にいようと決めた。だってお母さんが出て行ったなんて悲しすぎる。それで私もいなかったら悲しすぎる。イジメられてる子と一緒にいるとイジメられる。もうそれは、バケツの下にいたから水が流れてきたのと同じように。みぃちゃんは何度も言った。
「離れて。一緒にいるとイジメられちゃうよ。みぃは大丈夫」
本当は泣きたいくらい苦しかったけど、絶対離れなかった。こんなの間違ってる。
ある日、団地の外でみぃちゃんのお父さんに会った。
「みぃはイジメられてないか?」
私は嘘をついた。
「イジメられてない」
そうか、ありがとう。小さく言ってみぃちゃんのお父さんは階段の闇に消えた。
それから数日後、みぃちゃんが言った。
「引っ越すことになったの。おばあちゃんの家に」
悲しくておいおい泣いた。何も残らなかった。私は何もできなかった。
ありがとうと言ってみぃちゃんは去った。
大人はみんな「嘘をついちゃいけない」て言う。
でもそれって本当かな。嘘にはきっと理由がある。
あの嘘は正しかったのか、間違ってたのか判らないけど、本当のことを言うのはイヤだった。ただそれだけ。