歩くと飲み屋に向かってる会社の人に会うかもしれない。僕は雨の中、大通りまで小走りで出てタクシーを拾うことにした。通り雨かと思ったが雨は激しく道をたたき、流れとなって本降りの顔を見せはじめていた。
帰ろう。
お酒を飲む気分ではなくなっていた。新人は歓迎している。でも何もお酒を飲んで歓迎する必要はない。僕はコンビニの入り口で空のタクシーが来るのを待った。一台、二台と見送るが全てに客が乗っていた。タクシーの隙間に何度かバスが見え、やはり傘を買ってバス亭まで歩くべきか、と思いながら、思ってるうちに空のタクシーが来るのではないかと外をぼんやり見ていた。
随分と本降りになってきていた。白く雨煙があがる交差点の向こう。傘もささずに立っている女の人が見えた。そのすぐ後ろにはお弁当屋がある。傘を持っていない人は皆そこに避難しているのに、その人は直立姿勢で交差点に立っていた。そして青になった信号を、ゆっくりと腕をふって歩き出した。あまりにも堂々とした歩き方に、僕は目を離せなかった。その人は雨に濡れた前髪を耳にかけながら僕のところに歩いてきた。
「会場はこっちですか?」
柳沼さんだった。
「会場も、なにも」一瞬完全に言葉を失い、喉の奥から言葉を出す。「びしょ濡れじゃないですか」
柳沼さんは濡れて下に着ているキャミソールが透けている白いシャツを両方の指でつまみ「途中でふられて」とパチンと指を離した。