さいたま新都心のMOVIXで『レディ加賀』を観ました。

 

 

ポスターの左下に小さく「新たな夢に向かって踏み鳴らせ おもてなしのリズム」というコピーが書かれています。ここには、タップダンサーになることを夢見て都会に出た小芝風花さん演じる主人公が、数年後失意を抱きながら実家の旅館に戻り、同級生や出会った仲間たちとともに女将修行に悪戦苦闘しながら温泉町興しに邁進する姿が凝縮されています。

 

何と言っても「レディガガ」ならぬ「レディ加賀」というネーミングが秀逸です。ところが、これはこの映画のために作られたものではなく、加賀温泉郷組合が平成23年(2011年)10月に立ち上げた Lady Kaga プロジェクトに由来するようです。加賀温泉郷とは、石川県を代表する<山代><山中><片山津><粟津>の4つの温泉地の総称です。言うまでもなく2011年は東日本大震災が起きた年です。おそらくプロジェクトの背景には震災によって打撃を受けた温泉郷組合の再起という意図があったのだろうと思います。

 

2008年の8月、私は妻と加賀温泉郷を旅行して片山津温泉に宿泊しました。窓から柴山潟が見渡せる宿でしたが、湖畔から浮橋をつたってお参りした「浮御堂(うきうき弁天)」が映画に登場したときは当時のことが思い出されてとても懐かしい気持ちになりました。とりわけ温泉宿での仲居さんのさりげないおもてなしが蘇りました。

(下の写真は 2008年8月に私が撮影したものです)

 

 

片山津温泉は「雪は天から送られた手紙である」の名言で知られる中谷宇吉郎博士の生まれ故郷です。彼の功績を今に伝える 雪の科学館 は柴山潟のほとりにあって宿から歩いて行きましたが、人工雪の生成実験を見せてもらうなど、とても見ごたえのある施設でした。隣の山中温泉にも足を伸ばして渓谷伝いに散策した思い出がありますが、映画の中にもそのときの風景が一瞬見えたような気がしました。

 

映画自体は、ある意味 "ベタな" ストーリー展開だったので安心して楽しめました。そしてこの映画のウリである「和装でタップダンス」もそれなりに良かったですが、昔見た 舞妓はレディ の鮮烈な印象には今一つ届かなかったように感じられました。 

 

今年1月1日の能登半島を襲った地震の影響は今もなお石川県の皆さんの生活に影を落としているようです。加賀温泉郷の旅館には地震で住宅を失った方々が多く身を寄せていると聞きます。一方では、3月中旬に北陸新幹線が福井・敦賀まで延伸することに伴って「加賀温泉駅」が開業します。それに呼応するかのように、観光庁は2月、能登半島地震で打撃を受けた北陸4県の早期観光復興のため「北陸応援割」というスキームを打ち出しました。しかし話はそう単純ではありません。観光客が激減したコロナ禍の時とは違って、観光施設自体が地震で大きな被害を受けているのです。さらに、宿泊業が行政に代わって被災者の住宅救済事業を担っているのです。そういう状況にあっては、まず被災者の方々の日常を取り戻すことが最優先されるべきでしょう。いつもながら国のやることには頓珍漢さが否めません。

 

おそらく「北陸応援割」のような方針が打ち出されて一番大変なのは現場だと思います。まさに Lady Kaga の手腕が発揮されるときなのかもしれません。