年賀状は年々減少傾向にある ようですが、少ないながらも私には毎年年賀状をやり取りする方々がいます。自分が出した年賀状で手元に残っているものを見返してみたところ1982年まで遡れました。かれこれ40年続いていることになります。そのなかで見つけた三回り前の寅年、すなわち1986年の年賀状に、"BE TRAD" という言葉がありました。新しい年にあたっての抱負めいたものを年賀状に書く "若さ" が当時はまだあったんだなと懐かしく思います。

 

 

 「寅(トラ)」 年に引っ掛けて "BE TRAD" に決めた覚えはありますが、当時ファッションなどで 「トラッド」 という言葉が流行っていたからのか、あるいは "BE TRAD" というキャッチコピーがあったからなのか、そこに至った経緯までは覚えていません。Etymology Dictionary には

 

 

とあるので、ひょっとすると当時聴いていた音楽からの影響があったのかもしれません。

 

"TRAD" は "traditional" を略したものですが、名詞形の "tradition" が意味するところは

 "A long-established custom or belief that has been passed on from one generation to another. (by Oxford Online Dictionary)" です。したがって、「伝統、慣習」 と訳される "tradition" を大切にしようとする立場が "BE TRAD" ということになります。しかし、

あれから36年経った今の時代に、これがありたい姿であるとは私には思えません。

 

昨年読んだ中で特に印象に残った本は 他者の靴を履く(ブレイディみかこ) でした。また、一昨年のそれは 人新生の「資本論」(斎藤幸平) でした。この二つに共通するのは、前者はアナーキズム、後者はマルクス主義、それぞれに対してこれまで "traditional" に捉えられてきた通念を破壊するところにありました。つまり、この二冊の本から私が感じたのは、"Doubt tradition" ― これまでの通念を疑い、そもそも彼らが何を言おうとしていたのかを根本から問い直す ― という姿勢でした。

 

1986年の年賀状に私が "BE TRAD" と書けたのは、その当時が伝統や通念をあえて疑う必要のない平穏な時代だったからなのだと思います。これに対し、VUCA と形容される現代に生きる私たちは、物事をそもそもから捉え直す必要に迫られているといえます。読み直すことによって新たな意味を汲み出すことが出来る書物が "古典" です。最近少しずつ読み進めている 小林秀雄 もその仲間かもしれません。2022年の読書はそんなことを気に掛けながら読む本を選んでいきたいと思います。