『わたしのえほん』 | 行く河の流れ

行く河の流れ

行く川のながれは絶えずして、しかも本の水にあらず。よどみに浮ぶうたかたは、かつ消えかつ結びて久しくとゞまることなし。

 先日彼女から本をもらった。いわさきちひろさんの絵本である。自身の絵に小さい頃から結婚し、その当時の生活を自叙的に記した本である。彼女の描く絵からも分かるように、文章もエピソードも優しさに包まれている安心感が伝わってきた。
 その中で僕はある青年と靴のエピソードが印象に残っている。終戦後、彼女は一人の青年と出会いました。彼の服装は終戦直後ということもあって、りっぱなものではありませんでした。ちひろさんは言います。「靴を買ってあげましょうか」と。しかし彼は靴なら6足も海軍からもらったものがあるのでいらないといいます。しかしそのもらった靴は履いていません。
 「僕は一生お金のたくさん入るような仕事にはつかないつもりなんです。ですからとても靴なんて買えるようにはならないと思います。だからあの6足の靴を一生はこうと思ってたいせつにしているんです」。彼が言った言葉でした。ちひろさんはこの言葉を忘れることができないくらいの衝撃を受けたと言っています。
 このもらった絵本の中には他にもいろいろなエピソードが登場する。どれをとっても僕の心をほっとさせてくれる。この視点が大好きである。雑誌『ku:nel』のコピーである「ストーリーのあるモノと暮らし」。この本の中にはそれらが溢れていた。