スピルバーグの映画『ジョーズ』の中で、人食いサメ退治に協力する漁師のおっさんが第2次大戦中に巡洋艦に乗っていて、日本海軍の潜水艦に沈められ多くの乗員と共に海に投げ出されサメに襲われた、という話をする下りがあります
その巡洋艦の名前は『インディアナポリス』と言いますが、これが先日発見されたそうです
https://twitter.com/PaulGAllen/status/898953840015228928
発見者は2015年にも戦艦『武蔵』を発見したポール・アレンというおっさんで、マイクロソフトの共同創業者の大富豪で、兵器オタクの趣味に有り余る財力をつぎ込んでいるそうです
彼が今回発見した重巡インディアナポリスは1945年7月、広島と長崎に投下される事になる原子爆弾の部品を運ぶ極秘任務に就いていました
その帰りに日本の潜水艦『伊58』の雷撃を受け沈められます
「こんにちは!伊五十八です。
ゴーヤって呼んでもいいよ!苦くなんかないよぉ!」
しかし極秘任務に就いていた影響から海軍司令部はインディアナポリスの喪失を確認する事が遅れてしまいました
救助が完了するまでに1週間近くかかってしまい、乗員1199名中生還者はわずか316名で、攻撃を受けた時に戦死した300名ほどを除くと最大で500名近くが海に投げ出されて死亡した事になり、その相当数がサメに襲われたと考えられています(とはいえ多くは疲労と低体温症からくる衰弱死と溺死)
艦長のチャールズ・B・マクベイ大佐も生還していますが、軍は救助にかかる不始末の責任を押し付けるかのようにマクベイ大佐を軍法会議にかけて有罪が宣告されました
米海軍は第2次大戦で約700隻の船を失っていますが、その責任を問われたのはマクベイ大佐ただ1人でした
裁判に当ってはインディアナポリスを沈めた伊58の艦長だった橋本少佐(当時)がアメリカまで呼ばれ、責任の一端とされたマクベイ大佐の回避義務の怠慢について意見を求められていますが、ジグザグ運動(潜水艦の突然の雷撃を発見してから避けるのは困難な為、あらかじめ不規則なジグザグ運動を行い照準を定めさせないようにする行動)をしていても無駄な状況だったと証言しかつての敵将を擁護しました
結局この裁判は海軍のトップであるニミッツ元帥が介入し無罪となりますが、戦後に遺族から責められたマクベイ大佐は1968年に自殺して世を去ります
この事件はアメリカでは結構有名な話となり、先述の映画『ジョーズ』のエピソードとしても語られています
『ジョーズ』でこの事件を知ったアメリカの12歳の男子小学生が興味を持って調べ、夏休みの自由研究的な課題で取り上げ、マクベイ艦長に責任は無いと発表したそうです
それを地元の新聞社が取り上げ、さらに大都市の新聞が取り上げた事で(アメリカには日本のような全国紙はない)再び事件は脚光を浴びる事になりました
これがきっかけとなってマクベイ大佐(退役時少将)の名誉回復の機運が高まり、2000年に連邦議会で公式に無罪である事が議決、当時のクリントン大統領もこの決定を支持しました
尤も事件当時の軍法会議でニミッツ元帥の要請により無罪は決定していたんですが
2016年にはニコラス・ケイジがマクベイ大佐を演じる、この事件の顛末を描いた映画『パシフィック・ウォー』が作られました
「戦艦インディアナポリス」と謳ってますが、実際は重巡洋艦です
沈没地点自体は2008年に発見されていたのですが、今回大金持ちの道楽で潜水艇とこれを運用する母船が投入され、画像や動画により海底に眠るインディアナポリスが確認されたという事です
奇縁というべきか、この5月には五島列島沖海底で戦後米軍により海没処分にされた日本軍艦・潜水艦の集団が発見されており、海底に刺さった姿が確認された潜水艦がインディアナポリスを撃沈した伊58ではないかと見られています(同型艦が同時に処分されている為確証は無いものの、一部の特徴からおそらく伊58だろうと思われる)
“旧日本海軍「伊58」らしき潜水艦、見つかる クラウドファンディングで研究資金募る”
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1705/29/news110.html
( ・ω・) 「夏休みの宿題でマクベイ大佐の名誉回復のきっかけを作った少年ですが、彼はその後海軍軍人の道を目指しているそうです」