http://www.huffingtonpost.jp/2015/11/16/amuro-rei-tottori_n_8573028.html“ハフィントンポスト『アムロ・レイは鳥取県出身? 制作会社のサンライズ「触れないで」【機動戦士ガンダム】』”
最近話題になったこのネタ
機動戦士ガンダム(1979~80)の主人公アムロ・レイは鳥取出身だった!?というもの
ガノタ(ガンダムオタク)にとっては今さらな話なんですが、先日ツイッターに挙げられた地方紙の記事が元になり拡散、ネットニュースにまで取り上げられてしまったのでした
第13話「再会、母よ」においてアムロの故郷とされる地域をホワイトベース(主人公一行が乗る軍艦)が通りかかった時、アムロは休暇を貰い実家を訪ねますが、あれやこれやあって再び母と別れるという話の舞台となったのが鳥取県だと言われていたのです
この最後の別れのシーンの砂場が鳥取砂丘だと言われていました
作品の時間軸で物語が始まる遥か前に、スペースコロニーの技術者だったアムロパパ(テム・レイ)がコロニーの建設現場を見せて宇宙時代を生き抜く立派な子に育てたいと宇宙へ住むと言いだしたのですが、宇宙暮らしは馴染めないとアムロママ(カマリア・レイ)は地球に残る事になり、家族は別居状態になっていました
この時代100億以上の人口を養うのと、地球の環境汚染を食い止める為に総人口の半分を半ば強制的に宇宙移民させており、地球に住む事が出来るのはエリートの家族か余程のコネがある者と限られているような背景がありました(棄民に等しい宇宙移民者と特権階級である地球居住者の対立が戦争の理由)
アムロママは夫のアムロパパがスペースコロニーの技術者という事で地球に住める、いわば特権階級の端くれだったようです
で、戦争が始まって音信不通、アムロは住んでたコロニーが地球連邦軍の秘密兵器(ガンダム、開発者はアムロパパ)の開発に使われてた事で敵であるジオン公国軍の攻撃を受け、連邦の軍艦のホワイトベースに多くの避難民と共に逃げ込んで難を逃れます
一方、戦争の勃発により色々物騒だった事からアムロママは難民キャンプに身を寄せており、消息を追って訪ねてきたアムロと再会する訳ですが、そこがジオンの勢力圏だった事からパトロール部隊に見つかりそうになり、鉄砲で追い払わざるを得なくなってしまったのです
まあ戦争中ですから傷害罪とか殺人罪に問われるような話ではないのですが、お嬢さん育ちでどこかズレてるアムロママは「情けない…、そんな事が出来る子じゃ無かったのに…」とある意味真っ当な感想で息子を詰るのでした
宇宙移民する時に一緒に付いて来てくれなかった事や、どうもこの難民キャンプで男を作ってるらしい気配を感じてたアムロは『母を捨てる』決心を固めるというエピソードです
ちなみに上の別れのシーンでアムロママを送ってきた車の運転手がその情夫だと当時から言われていました
昔はファンが「そんな感じだよね」みたいな2次設定を勝手に作ってただけだったのが、半公式的に取り入れられてしまった様です
アムロが日本人である、という設定も当初は特に国籍などは決められていなかったのですが、スポンサーからの要求で日本人という設定が加えられても鳥取県が出身であるという様な事も決まっていた訳では無かったのです
しかし日本人で実家が鳥取にあるなら鳥取県民だよねぇと言われていたり、制作側の富野由悠季監督や作画監督の安彦良和氏が後年それを認める様な発言をしてもいた、という事です
これはホワイトベースの地球における航路の概略図です
宇宙のサイド7で敵の襲撃を受けたホワイトベースは避難民を収容しつつ、敵の追撃を受けながら地球連邦軍本部のある南米はブラジルの密林の地下にあるジャブロー基地を目指します
しかし大気圏突入時に敵の攻撃を受けてコースが大幅に変わってしまい、南米に降りる筈が北米はグランドキャニオンの辺りに降りてしまうのでした
そこはジオンの勢力圏という事で、直接南米のジャブローに向かうのは難しいと何故か地球を一周して大西洋側からジャブローに向かうことになるのでした
太平洋を横断して日本を横切る時にこの母と再会するエピソードが発生するのですが、ハワイもジオンに抑えられており、太平洋全体もジオンの勢力圏と化していた筈なので、このコースも無理があるだろと当時から言われていた物です
その後タクマラカン砂漠の辺りでランバ・ラルの追撃を受け、中央アジアで黒い三連星の攻撃を受け、黒海沿岸でオデッサ作戦に参加、北アイルランドのベルファストでスパイに潜入され大西洋を血に染めて横断しジャブローに到達、そこからまた宇宙へ向かう事になるのです
無理があり過ぎるこの地球一周クルージングに対し、ガンダム放送から20年後にコミカライズが始まった「ガンダムTHE ORIGIN」では大幅な改編が加えられました
元々この“オリジン版”はガンダム放送当時のメインの制作スタッフだった安彦良和氏が後に漫画家に転向しており、毎週の放送と云う慌ただしい状況で満足のいく制作が出来なかった事や(安彦氏は放送後半に激務から倒れて制作から離れている)、ガンダムファンの世代が変わっている事もあり『これがオリジナルの完全版である』という物を作っておくべきではと説得された事から始まった作品でした
2000年前後の安彦氏は古代史や近代史物の作品を重厚なタッチで描く一流の漫画家としての地位を既に確立しており、今さら『ガンダム』でもないだろうという意識が自他ともにあった様ですが、当時本人が大病を患っていた事で空き時間があり、また人生の集大成を考える様な事もありで「やっておくべきか」という決意を固められた様です
で、やるからには設定上の矛盾点や等閑にしていた部分を全て掘り返してしまおうと、アニメ版では語られなかったシャアの生い立ちなどにもたっぷりと時間と紙幅をとるというガノタ感涙物の大作となったのでした
ホワイトベースの訳の分からない地球一周クルージングも見直され、北米に降下コースを変えられた後はメキシコを縦断してアンデス山脈の隙間からブラジル側に入るコースを取る、ある意味合理的なコースを取るように改編されたのでした
ランバ・ラル、黒い三連星の追撃もその最中に行われる事になった結果、戦闘地域はアニメ版の中央アジアから中南米のメキシコ~ペルーの辺りに変更されました
しかしっ
ここで一つ問題が起きてしまいます
アムロママと再会するエピソードは、その舞台を鳥取からメキシコはバハカリフォルニアのロサリトという街に変更しなければならなくなってしまったのです
オリジン版では太平洋を渡っていないし、日本にも立ち寄っていないので鳥取がアムロの故郷でアムロママの在所であっては困るのです
にも拘らず、安彦先生はこの設定変更を忘れてしまわれた様で、ストーリー完結後に番外編を数編描いて出した第24巻で母との再会をアニメ版に準拠して鳥取の話として繋いでしまったのです
TV・劇場版ではホワイトベースの航路は
サイド7 ⇒ ルナツー ⇒ 大気圏突入 ⇒ グランドキャニオン ⇒ カルフォルニア ⇒ 日本 ⇒ 中央アジア ⇒ オデッサ ⇒ ベルファスト ⇒ 大西洋 ⇒ ジャブロー ⇒ 宇宙 ⇒ サイド6 ⇒ ソロモン攻略戦 ⇒ ア・バオア・クー攻略戦
となります
一方オリジン版では
サイド7 ⇒ ルナツー ⇒ 大気圏突入 ⇒ グランドキャニオン ⇒ カルフォルニア ⇒ ロサリト ⇒ クスコ ⇒ ジャブロー ⇒ ベルファスト ⇒ ジブラルタル ⇒ オデッサ ⇒ 宇宙~
と大分コースが変わり、エピソードの順序も一部逆転する事になりました
安彦先生はどこかでこの事実を忘れてしまい、アニメ版のストーリーの後日談になるような番外編を描いてしまわれたのです
この事を承知しているからでしょうか、冒頭のリンク先記事にあるように制作のサンライズは「その事には触れないで欲しい」と鳥取県民説についてはお茶を濁している様なのでした
ちなみに幼女時代のセイラことアルテイシア役を演じてる潘めぐみさんは、36年前の1stガンダムでララァ・スンを演じておられた潘恵子さんのお嬢さん
ファンも世代を跨ぐなら、演者の方も代替わりしてるという
このオリジン企画には、1stガンダムが欧米では人気がイマイチなのは、流石に1979~80年当時の古いアニメなので絵面が厳しいという事があり、単なる焼き直しにならないリメイクの素材が欲しい、という事情もあった様です
確かにこれが原典だから有難く見ろと言われても無理
( ・ω・) 「アニメ化は4作目で一区切りの模様」