忘れようとしても思い出せない、というバカボンパパの名言があり、
結局覚えているのか忘れているのか決定できないわけで、自己矛盾をはらんだ奇妙な浮遊感に囚われてしまう。
年をとればとるほど我々には忘れてしまいたいことがいっぱいあって
忘れてしまいたいことが今の私には多すぎる
このように、その昔一世を風靡した「夢想花」では歌っているが、そのあとすぐに
私の記憶の中には
笑い顔は遠い昔
と続くので、本当は忘れたくないのでは?と思ったりする。そして歌にして何回も歌ってれば結局何回も思い出すので忘れたいことほど思い出しやすくなり、思い出せば出すほど忘れたくなるという皮肉。
忘れるといえば、忘れてはいけないこの名曲。
ボサノバ調のイントロから始まるラテンテイストの"Obliviate"。
英語だと「オブリビエイト」と発音して忘却するという意味だが、この歌では「オブリビアーテ」と発音していてラテン音楽アレンジなので、スペイン語でもポルトガル語でもないみたいで、英語をラテン風に発音しているよう。
今から記憶を消すんだ
一歩後ろに行くたびに思い出を一つずつ
私はあとどれだけ歩いたら
あとどれくらい捨てたら
あなたと他人になるのか
十歩では全然足りない
千歩でも足りないかも
結局私は悪い記憶は消えて
良い記憶だけが残るという
でたらめなその呪文をかける
頭よ obliviate
心よ obliviate
痛いよ 私はあとどれだけ倒れなきゃいけないの
これは違う そんなはずがないんだよ
もっと鮮明な顔 その声がまた耳元で
私の頭の中はすごく窮屈
こんな歌詞なので、やはり忘れたいことほど忘れられなくて、なんなら歌にして歌うことでさらに忘れられなくなってしまう。
とはいえ、悪い記憶を歌にすることで聴く人を感動させたり癒したりすることができるわけで、"Obliviate"と歌うことこそが「悪い記憶が消える呪文」なのかもしれない。
冒頭の歌詞の後ろむきに歩きながら記憶を消していくというイメージが印象的だが、この曲が収められているアルバム"Modern Times"では、この曲の次に"Walk with me, girl"というおじさんが娘を散歩に誘うという素敵な曲があり、歩くイメージで曲をつなげているのが粋である。
この曲でIUとデュエットしているおじさんチェ・ベクホ氏は、「おつかれさま」のエンディング曲を歌っていて、青龍シリーズアワードの受賞式で歌っていたのも記憶に新しい。
そして、忘れられているのにまた思い出して歌わずにはいられない記憶を歌ったこの歌。
聞くたびに涙を誘う…
忘れては思い出し思い出しては忘れながら人は歳を重ねていくのだろう。