願わくば | てちとぴあ

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 ヘ/タ/リ/アで二次小説を書いて行きます。たぶん、日受け中心になるハズ。

 「俺も行でええべか」
 ギリシャさんと話をしていたところへ合流したトルコさんも加え、花見の計画を立てていたところだった。多数の話し声と靴音の流れる会議場ロビーに、その声はひどく涼やかに響いた。
 振り返ると、あまり話したことのない国が立っている。ノルウェーさん、という名前は、感嘆の思いの裏側に浮かんだ。色素のうすい肌、髪、深い深い藍菫の瞳。なんて綺麗な…
 「俺も、日本さ興味があんべ。日本がごど知りて。いづも見でる景色やら、何して暮らしてんべとか」
 続けられた言葉に、はっと我に返った。いけない、見とれてしまっていた。私は急いで笑顔を作り、今まで話していた相手と彼との中間あたりに向き直る。
 「我が国に興味を持って戴いているとは嬉しいお言葉ですね」
 「したば、ええべか?」
 「勿論どうぞ、お待ちしております」
 断る理由もないので、にっこり言った。すると日頃表情の乏しいノルウェーさんの瞳がふと緩んだ気がして、軽い驚きを覚える。それに釣り込まれたように、自分でも意外な言葉を口にしていた。
 「もしよろしければ、我が家に招待させて戴けますか?」
 「ええのけ?」
 「お、おい日本」
 「…!」
 なぜかトルコさんとギリシャさんが慌てた顔をするのが不審だったけれど、微笑を崩さないまま頷く。どうせいつものようにこの二人は泊まって行くのだろうし、一人増えたところで大差はない。それに、これだって立派な文化交流だ。国際理解を進める役に立てば一石二鳥というものではないか。
 「勿論です。しがない小屋(しょうおく)ですが、日本の生活にご興味がおありならホテルなどに泊まるよりもよろしいかと」
 「ちとこ違うべな…」
 「はい?」
 ノルウェーさんの呟きを聞き取りきれずに尋ね返すと、透明な美貌を湛える北国の化身は軽くかぶりを振って肩を竦めた。
 「何でもね」
 「はあ」
 それから大体の日程を話し合って連絡先を交換する。
 「へばな」
 「はい。楽しみにしています」
 別れ際に片手を挙げるノルウェーさんに挨拶を返すと、形のいい唇がかすかに弧を描いて。
 「…わもな」
 ひどくやさしい呟きがそこからこぼれた。なんだか…胸に滲みるような、声だった。
 



 「なあ、日本よう…」
 「何でしょう」
 その周囲だけ一切の夾雑物を取り除いたようにかっきりした輪郭を見送っていた私に、トルコさんが困惑を浮かべて呼びかけて来る。はて、いつも明快なこの人いや国が、一体どうしたんだろう。
 「アンタはほんと、朴念仁ってーか…こう、もうちっとなあ」
 言いかけたまま彼は、自分の口元を押さえて考え込んでしまった。
 「?」
 首を傾げる私に、別方向からもっとスローペースな声がかかる。
 「日本…にぶいから」
 むっ。と私は少しばかり背筋を正した。空気を読むことを趣味と特技とする身、鈍感呼ばわりは聞き捨てならない。
 「それはどういう意味でしょう」
 親しくおつきあいして戴いている方ではあるし真正面から尋ねれば、ギリシャさんは整った顔立ちにいつも通りのほほんとした表情を浮かべているけれど、そこに何がしかの緊張…懸念?が垣間見えた気がした。
 え、と戸惑う私に、再びトルコさんが口を開く。
 「アンタはもうちっと、危機感ってモンを持つべきだっつー話だよ」
 脇でギリシャさんがうんうん頷いている。日頃あんなにいがみ合っている二人が妙に同調しているので面食らってしまった。
 「危機感って…」
 ぼんやり呟いてみたけれど、今の流れからするとノルウェーさんに関係あるのだろうか。
 「そんな、ノルウェーさんに何か別意があるとでも?考えすぎですよ…」
 それは国際関係というもの何があるかわからないのは本当だとして、とりあえず、火急に何か企んで戴く必要があるとも思えない。否定しかかると、目の前の二人はなんとも言えない顔をする。強いて言うと、『駄目だこりゃ』という感じの。
 「まあ…いい。俺もいる、し…」
 ギリシャさんがほんの少し首を傾けながら言った。トルコさんが鼻息を噴く。
 「ばーろぃクソガキ、てめえなんぞがあてになるかい。日本にゃ俺がついてりゃ充分だっつーの」
 「うるさい、髭…お前こそ、日本のまわりうろつくな…」
 「ちょ、ちょっとお二人とも。やめて下さい」
 ああ、これじゃいつもの流れに突入してしまう。慌てて二人の間に割って入った。
 「私は争わないことを選んだ国ですよ?その目の前でいがみ合いなんて、よしてください」
 少し強めの声で言う自分は、彼らに気を許してるんだなあと思う。二人が叱られたわんこみたいに振り返るから、つい微笑が浮かびそうになってしまった。いけないいけない、と顔を引き締める。
 「いつも私に優しくしてくださいますし、私はお二人とも信頼しています。よその国の事情に口を出すつもりはありませんが、そのお二人が言い争うところを見るのは悲しいです」
 背の高い地中海の国たちの顔を見上げ、真摯に胸のうちを告げた。
 「日本…」
 「っあー、くそ。わーったよ、降参降参」
 何か言いかけたギリシャさんを、勢いよく挙げられたトルコさんの両手が遮った。
 「このクソガキはムカつくが非常の際ってえやつだ、もうケンカはしねえ。なるべく」
 「非常って…」
 付け足された一言も少し気になるけれど、それ以上にどうしてそんなにノルウェーさんを警戒するのかがわからない。戸惑う私をよそに、二人は目と目を見交わしている。
 「おめえもそんでいいな」
 「…イヤだけど、仕方ない。努力、する…日本、それで許して」
 「は、あ」
 何なんですか、もう。他にどうしようもなく、私は曖昧に頷いた。すると眉間をトルコさんにつつかれる。
 「それと、言っとくけどな。俺ゃ、アンタに優しくしてんじゃねえんだよ。…大事にしてんだ」
 「はいい!?」
 こっ、このひとの口と言ったら!言語中枢まで蜜が滲みているのでは!? 
 ぶっとぶ思いでいたら、
 「日本に触るな…」
 あああ、ギリシャさんの背後におどろ線が発生してる。思った時には叫んでいた。
 「もう、言ったそばから貴方がたは!!」