離婚が成立するまでの間も、娘は元夫に手紙を書き続けていました。
けれど、なかなか返事はもらえませんでした。
もともと、人の言葉に素直に耳を傾けるような人ではありませんでした。
何でも自分の思い通りにしたい、そんな元夫にとって、娘から言い出したことをそのまま受け入れるなど、簡単なことではなかったのだと思います。
それでも、根気強く手紙を送り続けた結果、ある日ようやく、まるで自分から言い出したかのように、元夫からこう返ってきました。
「では、離婚でお願いします」
離婚届は、あらかじめ市役所でもらってありました。
あとは記入してもらうだけ、というところまで準備は整っていました。
一つだけ、娘の強い希望で通してもらったことがあります。
苗字は、そのまま使わせてもらうこと。
当時4歳だった孫が、ようやく自分のフルネームを言えるようになったばかりでした。
その名前を変えたくない、という思いもありましたし、娘自身、旧姓に戻ることに、なんとなく違和感があったようです。
置き手紙と、記入済みの離婚届。
それと引き換えに、それまで預かっていた通帳とキャッシュカードを、元夫に返しました。
新居の家電を買うために、100万円の残高を求められましたが、そこはぎりぎりのところで守ることができました。
代わりに、私たちが必要なものをリストにして渡し、冷蔵庫やクーラーなど、いくつかは残してもらいました。
新しい生活のために、どうしても必要なものでした。
引っ越しの準備のため、娘は元夫がいない時間を見計らって、元の家に何度か通いました。
そのたびに、部屋にいる間中、耳元で何かがざわざわとうるさかったのだそうです。
まるで、怨霊がまとわりついてくるようだった、と娘は震えながら話してくれました。
離婚が決まってからも、モラハラの気配は、まだそこかしこに残っていたのだと思います。
翌日、市役所に離婚届を提出し、無事に離婚が成立しました。
孫は、それでも頑として、パパのいる家に戻ることを拒み続けていました。
娘も、きっと心細かったはずです。
けれど私も仕事を休めない身で、そばにいて言葉をかけてやること以上のことは、してあげられませんでした。