畠山殿があまりにもカッコよく散ったところで、今回は中世軍事考証という、僕のお仕事について少々。といっても立場上、守秘義務というものがあって、あまり具体的なことを大っぴらに書くわけにはいかないから、この場でお話しできる範囲のことを書こう。
今回の二俣川のような合戦シーンや、武士たちが策を練るシーンが出てくると、皆さんいろいろ詮索しますよね。この作戦は西股が考えたんだろうとか。その手の詮索は、当たっている事もあるけれど、たいていは外れている(笑)。
ひとつ、断っておきたいのは、ストーリーを考えるのはあくまで脚本家の仕事、ということ。作戦の立案はストーリーに直結する要素なので、僕の考えた作戦が、そのままドラマになるということはありえない。
実際に僕の仕事で一番大きいのは、全体のイメージ作りのお手伝い、みたいなところ。軍事的なシーンが鎌倉時代っぽく見えるような、イメージのベースを提案する、みたいな感じだ。その中で、いろいろなアイディアも出す。そのとき大切なのは、作り手がどのような映像作品を作りたがっているかを理解すること。
今回の二俣川と、次にくる和田合戦は、何度も打合せを重ねて、本当に時間をかけてストーリーを練り込んでいる。そうした中で、脚本家がよいストーリーを書き、制作側がよい映像を撮れるよう、いろいろなアイディアを出している。
現実的には、役者さんごとの得手・不得手や、絵的な見ばえ、撮影時の安全確保といった要素も考えなくてはならない。だから、史実はこうです、当時の合戦は実際にはこうです、みたいなことを主張しても、どうにもならないのである。
もちろん、出てきた台本もみっちりチェックする。僕の立場は軍事考証だから、政治的な動向みたいな部分は、基本的には本筋の考証の先生方に任せている。ただ、習俗や生活様式などに関する部分で、考証の先生方が見落としていそうな箇所は意見を出している。
なので、できあがった映像を見て。「お、ここは修正できてよかったな」と思ったり、軍事考証の立場で「してやったり!」とほくそ笑んだシーンも多い。今回の二俣川合戦も、僕のアイディアが奏功したシーンがいくつかある(ふふ)。
たぶん、皆さんが「えっ?」と意外に思うような箇所である。ただ、そうした細部を積み上げるからこそ、リアリティがあって面白いドラマができるのだとも思う。だから、「西股の仕込みはココだろう」という皆さんの詮索が外れてくれた方が、僕としてはうれしい。
見ている人たちが気付かないくらい、さりげなくリアリティが担保されていてこそ、軍事考証としてよい仕事ができたことになるからだ。
(西股総生)
《ワンポイントイラスト》
泰時、今夜は月が綺麗ですね……
(みかめゆきよみ)