【今週のワンポイント−4】矢の軌道 | 人生竪堀

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TEAMナワバリングの不活発日誌

 『真田丸』のときに、このワンポイントやトークイベントなどで、皆さんに繰り返しお断りしていたことがある。今回も、ドラマが本格的に動き出す前に再確認しておきたい。

 大河ドラマは、ドラマである以上、基本はエンタテインメントであり、フィクションである。『鎌倉殿の13人』も『真田丸』も、歴史上の事件が舞台となって歴史上の人物が登場する。でも、あくまで「ドラマ」であって、歴史再現映像ではない。制作する方は、そのつもりで作っているのだから、観る側も了解しておきたいものだ。

 そうした作品においての考証の仕事とは、視聴者が楽しめるようにドラマにリアリティーを担保することだと、僕は考えている。もし、考証的に極力正しい大河を作ったとしたら、一部のオタクは大喜びするだろうが、ドラマとしてはまったく面白くないだろう。

 たとえば、『真田丸』のクライマックスシーンで幸村が構えていた、フリントロック式の馬上筒。大坂の陣の年代を考えるなら考証的にはアウトだが、幸村がフリントロック式の馬上筒で家康を狙うシーンは、最高にカッコよくてドラマチックだ。これは、考証的にはアウトだとわかっていて、あえて取り入れた演出だ。

 今回の「第4回 矢のゆくえ」でいえば、山木・堤邸襲撃シーンで放たれる火矢。これは、考証的には本当はアウトだ。なぜなら、この襲撃は山木兼隆と堤信遠の本人を討ち取らなければ、意味がないからだ。

 夜襲の時にいきなり火をかけてしまったら、屋敷の中が大混乱になって、標的を捕捉できなくなる。屋敷に火をかけるのは、山木なり堤なりの首を取ってからにしなくてはならない。だからこの矢は、本当は音もなく見張りを射倒したはずだ。

 ただ、ドラマを観るとわかるように、ここは大変に象徴的なシーン。だとしたら、音もなく見張りを射倒す矢と、夜空に弧を描く火矢と、どちらがよいか。考証だけでなく、演出や技術の観点からも検討して、結論を出さなければならない問題である。

 というわけで、この先も合戦シーンなどで、僕の自説・持論とはちがう解釈や演出も出てくる。けれども、それは制作側が考証を無視しているわけでも、考証の手を抜いているわけでもなく、あくまでエンタテインメントとしてドラマをどう作るかの問題だということを、ご理解いただきたいのである。

 

(西股総生)

 

《ワンポイントイラスト》

 

 

合理的に考えれば闇討ちだけど、それじゃあまりにも華がないじゃない!?(火矢でGO!)

 

(みかめゆきよみ)