献本御礼 | 人生竪堀

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TEAMナワバリングの不活発日誌

 

①寺井毅『尼子氏の城郭と合戦』(戎光祥出版 2700円)

 松江在住で長年、山陰の城を踏査してきた寺井さんの研究が、ついに一冊の本にまとまったもの。寺井さんは、これまでも自治体のつくる調査報告書などにはけっこう執筆してきているし、論文もたくさん書いてきたのだけれど、一般の人が普通に買える本はたぶん初めて。

 全体は、尼子氏の盛衰を概述したのち、縄張り図をもとに出雲・石見の諸城を紹介する構成となっている。地方で地道に積み上げてきた研究成果が、こういう形で世に出るのは、本当にうれしい。ちなみに、寺井さんと会うと、城よりWLシリーズの話で盛り上がることもしばしば(笑)。

 

② 馬部隆弘『戦国期細川権力の研究』(吉川弘文館 20000円)

 馬部さんがこれまで発表してきた細川氏関係の論考に、補訂や新稿を加えて一冊の論文集としたもの。確かに彼は細川関係の論文を何本も書いていたのだが(抜刷いただいてました)、あらためて一冊になってみると、こんなに書いてたんだ!とびっくりしてしまう。全800ページになんなんとする大著で、並の論文集2冊分くらいのボリュームがある。お値段もハンパないので、さすがに「興味のある方は買って損はない」とは言えないのだけれど、この先、戦国期畿内の政治史研究には必読の文献となるだろう。

 「あとがき」で彼は、ずいぶん謙遜気味に殊勝なことを書いているが、本書の全体構成を見れば、かなり戦略的に細川研究を進めてきたことは明白。ま、彼は一見おとなしそうに思えるけど、こと研究に関しては、なかなかに野心家で自信家だから(笑)。面白いネタもたくさん持っているし、一般向けの本も書いて、講演とか講座とかせっせとやれば、戦国史界きってのモテ男になるだろうなー(実際、モテるって自慢してたし)。悪いことするなよ(笑)。

 

③畑 大介『治水技術の歴史−中世と近世の遺跡と文書』(高志書院 7000円)

 畑さんは、帝京大学文化財研究所に研究員としてお勤めで、実力派の考古学研究者として知られている。城についても多くの成果を挙げているから、城郭研究や中世考古学の分野で彼の名を知らない人はいないだろう。その畑さんが、長年にわたって考古学の成果と文献史料の両方を駆使しながら積み上げてきた成果を、一冊にまとめた労作である。

 専門的な論文集なので、誰にでもすすめられる本ではないけれど、今後、この分野では必読の書となるはず。武田氏の治水技術に興味のある方は備えておいてよい本かも。

 面白いのは、「あとがき」に書かれている、なぜ治水の研究をするようになったか、というエピソード。へぇ、きっかけは意外にも大河ドラマ「武田信玄」だったんだ。学究肌で生真面目な畑さんの人柄・風貌と、山梨の戦国史や中世考古学の研究をしている面々を思い出して、ちょっと笑ってしまった。

 とはいえ、「武田信玄」から現在まで30年もの月日が流れていることを思うと、あらためて研究って息の長い営みなんだなあ、と実感してしまう。