#本の紹介 『舟を編む』 | ティーチみやぎの「活動ブログ」|自閉症の子どもの自立支援

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宮城県仙台市を中心に、ティーチプログラムを活用して自閉症の子どもの自立支援を行っております。アメブロには、日々のティーチみやぎの日々の活動を記録して参ります。

 

本の紹介 『船を編む』

 

 以前ある自閉症の研修会で、三浦しをん著『舟を編む』光文社(2013)に出てくる青年が話題にのぼり、そのことが気になりつつ、時が流れてしまった。今回たまたま同作品の映画のDVDを大崎市の図書館で見つけ、ようやく観ることができた。この感動を弾みに本を買い求めたところ、一気に読みきった。『舟を編む』は2012年の本屋大賞に選ばれ、映画化もされたので多くの人が知っているだろうが、簡単なあらすじは以下の通り。

主人公は大手総合出版社の馬締(まじめ)光也。対人関係、コミュニケーションが苦手で、生活全てにおいて不器用、ただ本好きで真面目だけの人間、女性社員からは「キモい」とやゆされ、所属の営業部では存在すら忘れられるような人物。趣味は膨大な量の本を読む以外は「エスカレーターに乗る人を見ること」と、とても変わっている。

しかしひょんなことで「大渡海」という辞書を編纂するという野望に燃えるが、窓際族の部署、辞書編集部へと異動となる。ここは、辞書作りには一つの言葉をいかに簡潔に、的確に説明するか、という言葉を徹底して追究し、一つの言葉も漏らさない根気強さが必要とされる。そして個性豊かな仲間と関わりながら仕事が始まる。いつしか馬締の言葉へのこだわりが、言葉に対する鋭い感覚として活かされ、超真面目さは言葉調べでは何種類もの辞書をめくりつづけ、指紋がすり減るほどの仕事一徹、どんどん辞書作りにのめり込む。

 このような不器用な馬締とは正反対で何事も要領よくこなす同僚の西岡正志 。彼は辞書に魅入られた人を、自分では理解できない人種と考えていた。しかし次第に馬締らの辞書への打ち込み方を見て、胸が苦しいほどの輝きにみちている!と思うようになる。ある時、小刀で鉛筆を削っている馬締の不器用さを見て代わって削ってやったりする。最後には「すべてをかけて辞書を作ろうとする仲間を、会社の同僚として、渾身の力でサポートする」と自分の職業観を180度°転換させるところで宣伝広告部へ異動していく。

 代わりにファッション誌編集部から異動してきた入社3年の岸辺みどり。13年経っても刊行できていない辞書を追い求めている変わった人たちと、全く知らない分野でどう仕事をしていくか分からないでいた。そこで主任になった馬締の元で何となく働いているうちに、馬締が製紙会社の社員と辞書で使う特注紙をめぐって、専門家同士でコミュニケーションし合う姿の真摯さに胸を打たれる。あるいは馬締から重要な仕事を任され、それを自分一人で解決し、仕事の醍醐味を味わう。こうして岸辺も又いつしか辞書作りに夢中になっていおく。このように何事にも不器用でマイペースな馬締と一緒に仕事をしていくうちに、同僚たちの仕事への意気込みが変わっていく、生き方も変わっていく。このようなストーリーに馬締や西岡そして岸辺ら若者それぞれの恋愛や結婚がコミカルに描かれ、物語を盛り上げている。

これは自閉症が主人公の名作、映画『レインマン』の中で、二人旅を通して、お金が全ての弟チャーリー(トムクルーズ)が、常に我が道を行く自閉症の兄レイモン(ダスティ・ホン)によって大きく変わっていくのに通じる。『舟を編む』『レインマン』二つとも自閉症の主人公と一緒にいることによって、いつの間にか周囲が変わっていく。自閉症の存在を世の中に問う感動的な物語である。

 もちろん自閉症の人全員が秀でた能力をもっているわけではない、いやもっていない方がずっと多い。しかし自閉症の人一人ひとりに自分の中に凸凹があるわけで、他者と比較しないで、少しでも突出した(得意な)能力を伸ばすこと。その人のマイナス面(凹)を修正するのではなく、プラス面(凸)を伸ばすということに力点を置くべきであろう 。したがって自閉症に見られるこだわりの強さ、好きなことへのすごい集中力、これらを立派なプラス能力ととらえたい。

 『舟を編む』を読んで、自閉症のままで自分らしく生きていける人が増えていって欲しい。できれば隠れ自閉症(カモフラージュ)として必死で生きている人や、その家族そしてその周りにいる人たちにもお勧めしたい一冊である。

 


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