MMT は「自国通貨建ての国債であれば、いくら発行しても問題は無い。ただし、過度のインフレにならない範囲内で」と言う主張をするが、これに対して多くの人々は拒否反応を示すようだ。
「そんなうまい話があるはずはない」
「そんなことをすると、すぐにインフレになって収拾がつかなくなる」
などなど。
しかし、経済にはミクロとマクロがあって、マクロ経済的観点に立つと、MMT の主張には十分な根拠があることがわかる。
以下 [日本国債は国の借金ではなく通貨発行益であることを証明する] ( 165ページ)から引用する。
「ここでミクロ経済とマクロ経済の違いについて、詳しく説明しなければならない。
世界の中で、自国だけが豊かになれると考えるのは間違いだ。と言うよりは、他の国々も豊かになった方が、より一層自国も豊かになれると言うのが一番正しい。
わかりやすく説明するために、世界にはA国、B国、C国の三つの国しかないと仮定する。
A国は、近代的な産業が発達した非常に豊かな国であるとする。一方、B国とC国は、農業や漁業によって日々の暮らしをかろうじて送る程度の、経済的に遅れた国々であるとする。
そうすると、A国は自国一国の豊かさを享受することはできるが、それ以上の豊かさは望めない。なぜなら、B国もC国も、自分たちの衣食住の生産だけでギリギリであり、他国に輸出できるようなモノの生産は行っていないからである。
すなわち、この場合、A国は交易(貿易)による豊かさを受けることはできない。ただ、自国内で生産を行い、消費するだけである。
しかし、ここでB国、C国が、工業化し経済発展して、工業製品を生産するようになったとする。この場合、B国、C国は、かつての産業革命当時をもう一度繰り返すような、動力、機械の発明を一から行う必要は無い。A国の技術と生産設備を、そっくり導入することができるからだ。なぜなら、B国、C国の賃金水準は、A国よりもはるかに低いので、A国の企業は競ってB国、C国に進出し、工場を建て、生産を開始するからだ。賃金が低い分だけ、A国は自国で生産するよりも安い価格で、B国C国が生産したモノを逆輸入することができる。
B国、C国は、A国から導入した技術、設備、ノウハウを易々と手に入れた上に、次第に独自に生産設備を製造するようになり、なおいっそう多種多様なモノを生産し始める。
ついには、B国、C国もA国と肩を並べるほどの工業国になるのである。
重要な事は、この国々は、最先端の生産設備を導入しているので、ある製品を作る上で、大工場が2つ3つもあれば、たちまち自国内で消費する数量をはるかに超えて、他国に輸出するほどの大量生産が可能になると言うことだ。
このことは、何を意味するかと言うと、最終的にはA、B、C三国は、生産すべき数々のモノを、分業化して3分の1ずつ生産すればよくなると言うことである。
かつては、A国は自国内ですべてのモノを生産しなければならなかったが、今や、その3分の1を生産すれば済むようになったのである。これは、飛躍的な生産能力の向上が起きたと言うことになるのではないか。
各国は、自国内においても常に生産能力が向上しているが、これに加えて、他国の生産能力の向上が、なお自国の生産能力の向上にプラスされるのであるから、 二重に生産能力向上が起きたことになるのである。
マクロ的観点から考えれば、他国の経済発展は、すなわち自国の経済発展と同等と考えて良いのである。産業の空洞化は、世界を連結して考えれば、空洞化した国のマイナスにはならない。むしろプラスになっているのであるが、問題は、このことに気づくことができるかどうかである。」
上の引用文は、MMT の正しさを、ほんの一部分ではあるが説明している。
我々は、近隣の国が経済発展することによって、自国が経済競争に負け、そのために衰退しつつあるような錯覚を抱いてしまうが、そんな事は無い。むしろ事実はその反対であることを説明している。
国どうしの分業によって 3分の1の生産で済むようになったと言う事は、言い換えれば生産力が3倍になったことを意味するのであるが、ミクロ経済の競争原理によれば、3分の2の生産に従事してきた人間の労働が消滅し、そして、それだけの所得が消滅してしまうことになるのである。
このことによって、巨大な需要不足が生まれ、根強いデフレ現象から抜け出せなくなったのである。
ミクロ経済的観点に立てば、実質生産力が3倍になった事は、逆に貧しさが3倍になったのと同じ結果をもたらすのだ。
日本が1997年以降、経済成長が止まってしまった理由は、まさにここにある。国どうしの分業による生産力の向上と、自国内の生産力の向上(科学、技術の進歩による)の両方が合わさって、ものすごい勢いで生産力が向上するから、日本はどんどん衰退していくのだ。
これがミクロ経済の、競争原理、市場原理が支配する倒錯した世界である。
どうすれば良いのか?
もちろん、ミクロの原理が持つ欠陥を修正し、是正することができるのは、マクロ経済政策を行うことができる政府しかない。
政府は貨幣を発行することができる。政府はミクロの競争原理が失わせる国民の所得(豊かさ)を貨幣(国債)を発行することによって補うことができる。
政府は、国債を発行し、税収以上に財政支出することによって、国民の所得を増やし、生産力(供給力)の向上分にふさわしい需要を作り出し、供給と需要のバランスを取るのである。
この時、財政出動の規模の目安となるものは、供給と需要のバランスを表すインフレ率であるので、MMT が主張する事は全く正しいのである。