モノの価格(値段)は、需要と供給のバランスによって決まる。需要が多くて供給が少なければ、そのモノの値段は高くなる。反対に需要が少なくて供給が多ければ、値段は安くなる。
例えば、天候が不順で野菜の生育が悪ければ、収穫量が少なくなり(すなわち供給が少なくなり)野菜の値段は高くなる。供給が少ないのに値段が安くなる事は絶対にない。
サンマが豊漁であれば、サンマの値段は安くなり、不良であれば高くなる。(政府もしくは、何らかの強力な機関が価格の統制をしない限り、この逆になる事は絶対にない)
この需要と供給が、価格を決定すると言う説に、異論を唱える者はまずいないだろう。
それでは、「人間の労働」の値段(すなわち賃金)についてはどうだろう。
「人間の労働」の供給に対して需要が多ければ、すなわち、仕事をしたいと考える人間の数に対して、人間を雇いたいと考える企業や商店の方が多ければ、賃金は必ず上がるだろう。
その反対に、人間の労働の供給に対して需要が少なければ、賃金は必ず下がるだろう。この逆は絶対にありえない。
日本において、1997年以降、平均賃金は常に下がり続けて、全く上がる兆しが見えないのはなぜだろう。
それはもちろん、人間の労働に対する需要が、1997年以降減少し始めたからだ。なぜ減少し始めたのか? その理由は、科学、技術が著しく進歩し、機械、コンピューター、ロボット、AIなどが急速に発達して、人間の代わりに生産に携わるようになり、人間の労働が不必要になり始め、かつ人間の労働の価値が失われ始めたからだ。
ところが、一方において、日本は近年、人口減少と少子高齢化が進むので、労働人口が減少して、人手不足(労働力不足)状態にあると言う者が多いが、これは大変な間違いだ。
確かに労働人口は減っているが、それだけが原因で人手不足にはならない。労働人口が減少しても、それ以上に機械、ロボットが生産能力を高めれば、当然人間の労働に対する需要は減るではないか。
生産は、[人間の労働 ] + [生産設備(機械、ロボット、コンピューター)]の両方によってなされるのだ。人間だけが生産に携わるのではない。機械、ロボットを使わずに人間だけが、カナヅチやペンチなどを持って、電気製品や自動車などを作っているのではない。
したがって、労働人口の減少だけを取り上げて、人手不足になると判断するのは大間違いだ。そもそも、本当に人手不足なら、企業間において労働者の奪い合いが起きるはずだから、必ず賃金は上がるだろう。
2000年代に入って、正社員が減り、代わりに非正規労働者が増え、現在は非正規が4割にまで達するほどだ。
非正規労働者は、給与が正社員の半分程度で、しかも社会保険にも加入してもらえない。さらに、企業の都合で簡単に解雇されるかもしれない身分である。多くの人々が、このように不安定で低賃金の雇用に甘んじなければならないのは、人間の労働が不必要になり、安く買い叩かれているからだ。
その原因は何であるかと言うと、人間の労働が、機械、コンピューター、ロボット、AIなどに奪われ、そして、人間がせいぜい機械、コンピューターの補助的作業しかしなくなったため人間の労働の価値が低下したからである。
科学、技術の進歩は、機械、コンピュータを発達させ、生産能力を著しく高めることによって、我々の生活は豊かになり、過酷な労働や、危険な労働から解放され、素晴らしい社会が到来するものと思い描いていたのであったが、現実はそうならなかった。
確かに 1997年までは、生産能力は向上しながら、それでも人間の労働は充分必要とされたので、賃金は上がり続けた。そしてGDPも上昇し続けた。
ところが、1997年を境に、賃金が下がり始めると、時期を同じくしてGDPの成長がストップし、停滞し、以後長いトンネルのようなデフレ不況に突入した。
その間、政府は量的緩和と言う金融政策を、いくらやっても、さっぱり効き目がないまま、今日に至るのである。
効き目がないはずである。科学、技術が進歩しすぎて、人間の労働が不要になり、賃金が下がることによって起きたデフレ不況であるからだ。
賃金が下がれば、日本全体の雇用者の所得の合計額が減るのあり、それはとりもなおさず、日本全体の消費(重要)が減ると言うことである。供給に比べて需要がすくなるのであるから、デフレ不況になるはずである。
さて、それでは、どういう政策をとれば、日本は回復するのか?
雇用者の失われた所得を回復するのである。人間の労働だけが生産しているのではない。[人間+生産設備 ]が生産を行い、極めて高い生産能力を発揮し、大量のモノ、サービスを生産しているのだ。その大量のモノ、サービスに、釣り合いの取れる所得を国民全体に与えるのである。
誰が? もちろん政府が。
企業は、経費を節減するために、人間の労働を機械、ロボットに置き換える。機械、ロボットには給料を出さなくて良いからだ。
もちろん、このような企業の経費節減行動は、間違っていないし、責められるものでもない。ミクロ経済主体として当然の行為である。
しかし、日本全体と言うマクロ的視点に立つと、生産されるモノの量と、その生産されたモノを、消費するための国民の合計所得が一致しなくなる。
すなわち、国全体の生産(供給)に対して国全体の消費(需要)が不足するためにデフレになるのだ。
それなら、供給と需要を一致させれば、デフレ不況は解消する。企業が機械、ロボットに給料を払わないのなら、政府が変わって給料を払えば良い。もちろん、その給料はそこで働く労働者に払うのだ。機械、ロボットは給料もらっても、自分で使うことができないからだ。
人間が機械、ロボットを動かして高い生産を上げるのだから、機械、ロボットの給料分は人間がもらえば良い。これで、国全体の生産(供給)と消費(需要 )とがようやく一致することになる。
政府はどうやって、その給料を調達するのか? もちろん国債を発行して調達する。
そんなことをすると、政府の財政赤字が増えるではないかと言うだろうが、MMT が主張するように、政府部門の赤字は、民間部門の黒字であるので、何の問題もない。
財政赤字とは、単に数字にマイナスがついているだけのことに過ぎない。こんなものは、世の中に何の影響も与えないし、架空のものでしかない。
それよりも、現実に存在するものは、供給と需要である。こちらの方が、はるかに世の中に影響を与え、そして国民に豊かさをもたらす。
せっかくの科学、技術の素晴らしい進歩を、人間にとって有利になるように工夫することのできない、愚かな日本国の指導者たちよ!