現在MMT を理解し、賛同する人は少しずつ増えて、ある一定数に達したようだが、それ以上はなかなか増えないようだ。
なぜ増えないのか。その理由はMMT がまるで「打ち出の小槌」のようで、あまり話がうますぎるので、簡単に信じる気にはなれないと言うことのようだ。
「自国通貨建ての国債は、いくら発行しても国が破綻する事は無い。高インフレにならないように気をつけるだけで良い」
確かに話がうますぎるように感じられて、多くの人が警戒するのだろう。
さらに、MMT 派も人を納得させる十分な説明をしているとは思えない。
どの点が説明不十分か? それは「生産」についてほとんど触れていないことだ。経済とは「生産」であり、「生産」があるから「貨幣」にも存在意義が生まれ、経済が成り立つ。したがって、経済について語るときは、その大部分を生産について費やさなければならない。
ところがMMT は、貨幣について語るばかりで、生産については全く触れようとしない。この点がMMT の欠点だろうと思う。
日本の国内総生産(GDP)が低迷し始めたのは、1997年からであった。実に日本は25年間経済成長がストップしたままなのである。
それでは、この25年間、日本は生産性が全く向上していないのだろうか?そんなはずはない。
科学、技術は絶えず進歩、発展する。産業界(企業)は、その進歩、発展を貪欲に取り入れ、生産性を向上させ、自己の利益に結びつけようとする。
もし、ある企業が新しい技術導入に遅れをとれば、それは即座に、同業他社に敗退することを意味する。だから企業は、ものすごい勢いで生産性の向上を実現してきたのである。
それなのに、なぜ経済成長はストップしてしまったのか?
それは、企業が生産性の向上を目指す理由は、次のようなものだからだ。
企業は熾烈な競争に勝って生き残るためには、より良い製品をより安く売らなければならない。より安く売るためには、当然必要経費を削らなければならないが、経費の中で最も高くつくものは人件費である。
この人件費を削るために、企業はより優れた機械を導入し(設備投資)、生産性を上げ、その結果従業員を削減することが可能になる。これによって、必要経費を減らすことに成功し、この企業は他社より有利な地位を得る。
しかし、当然のことながら、同業他社もたちまち、同じような機械を導入し競合するだろう。そこで、さらに企業は新しい優れた機械を導入し、人員削減を行うのである。このようなことが産業界において、絶えず繰り返されたことにより、1990年代には日本中でリストラ旋風が巻き起こった。
特に製造業の就業者数は、1992年には約1500万人であったのが、 2012年には約1000万人に減少している(総務省「労働力調査」)。およそ3分の2に減ったことになる。
こうして製造業からはじき出された人々は、サービス業に移るしかなかったが、サービス業もどんどん機械化が進むので、ここでも人間の労働は、あぶれたのである。
科学、技術が進歩し、機械、コンピューター、ロボットが発達して、生産性が著しく上昇した結果、人間の労働は余分になってしまったのである。(2002年に完全失業率は5.6%と言う、日本にしてはかなり高い率に達している。総務省「労働力調査」)
この状況を見た産業界は、当然のようにこの多数の失業者を利用することを考えた。それは、この人たちを正社員ではなく、非正規労働者として雇うことであった。
非正規の待遇は、給与は正社員の半分程度で、社会保険に加入させない上に、会社の都合でいつでも解雇することができると言うものであった。
このようなひどい労働条件でも、失業よりはマシなので、非正規で働く人々はどんどん増えていって、現在では雇用者全体の4割にも達している。
企業にとっては、これほど使い勝手の良い労働力はないので、正社員を雇うのをやめて、どんどん非正規に変えていったのである。
以上の経緯をわかりやすくまとめてみよう。
科学、技術が進歩発展したことによって、企業は優れた生産設備(機械、コンピューター、ロボット)を導し、多数の従業員を削減することができた。
こうして生まれた多数の失業者を、企業は非正規労働者として安く買い叩くことができた。当然、非正規は増えていき全体の4割に達した。
この4割の非正規の安い給与は、必然的に労働者全体の平均給与をどんどん下げることに貢献した。その結果、労働者の所得の合計額は減っていき、当たり前のように日本全体の総需要を引き下げ、それはGDP (経済成長)の低迷に直結した。しかもこの不況はデフレーション(需要不足)と言う現象を伴うものになり、いつまでたってもこの不況から抜け出せずにいるのである。
本来、科学、技術は世の中を豊かにするために発展したはずなのに、われわれはそれを豊かさにつなげることができずに. 反対に貧しくなっているのだ。何と言う愚かなことであろうか。
それでは、どうすれば豊かさにつなげることができるのか?
とても簡単なことだ。現在の高い生産力に見合った需要(消費)を人工的に作り出せば良い。
企業は安く売るために人件費を削る。労働者は失業するよりはマシなので、安い非正規でも我慢して働くしかない。そのため賃金の合計額は減る一方なので、国全体の需要は下がる一方になる。こうして一国経済は縮んでいくしかないのである。
そうであるなら、貨幣を発行する権限を持つ政府が、広く財政出動及び減税をすることによって国民の所得を増やし、生産力にふさわしい総需要を人工的に作れば良いのだ。
以上がMMT の主張を生産面から解き明かしたものである。実に合理的ではないか。これは打ちでの小槌では全然ない。
先日、NHKの日曜討論で、山際経済再生大臣が経団連会長と連合会長に向かって、賃金を上げるよう要望していたが、この大臣は何もわかっていない。
ミクロ経済主体(企業、個人、組合)には貨幣を発行する権限は無い。それができるのはマクロ経済主体である政府しかない。科学、技術の進歩を世の中の豊かさに結びつけることができるのは、政府しかないのである。
