7月31日、NHK朝の討論番組に、経済学者数人が出演して、平均賃金を上げるにはどうすれば良いか、について議論していた。ほぼ全員が、そのためには労働生産性を上げる以外にないと言う結論であった。
労働生産性とは、ある企業における生産額(売上額、もしくは付加価値額)を労働者数で割った数値によって示される。すなわち、労働者一人当たりの生産額と言うことになる。
ここで気をつけなければならないのは「生産量」ではなく、「生産額」であると言うことだ。
いずれの企業も厳しい生存競争に打ち勝つために、常に生産性を向上させる努力をする。そのために第一にする事は、最新式の優れた生産設備を導入することだ。
これがうまくいけば、例えば、同じ数量の製品を生産するのに、今まで労働者20人が必要であったが、、半分の10人で生産することができるようになる。そうすると、この企業の労働生産性は、いっきょに2倍に跳ね上がることになる。
( 気をつけなければならないのは、この場合、労働者20人のままで、2倍の数量の製品を生産すると言うことには、ならない。なぜなら、販売先のシェアが限られていることが多いからだ。したがって、20人のうち10人の労働者は、余分になるケースが多い。そのうちの一部は配置転換され、一部は解雇されるだろう。)
この素晴らしい成果によって「この企業はすぐに労働者の賃金を2倍に上げると言うことには全然ならない」なぜなら、競争相手の同業他社も、負けじとばかり同様の生産設備を導入するだろうことを、この企業の経営者は見越しているからだ。
だから、せいぜいこの場合、この経営者は労働者に一時金(ボーナス)を多めに支給する程度で止めるだろう。
さて、しばらくすると、やはり同業他社は同じような優れた生産設備、いや、もしかすると、もっと優れた生産設備を導入することになり、最初の企業の優位性はたちまち消え去ってしまうのである。
そしておそらく、この場合、企業間において製品価格の値下げ競争が起きるだろう。なぜなら、企業はより良い製品を、より安く売ることによって競争に勝とうとするからだ。
その結果、製品価格は2分の1にまで下がって収束するだろう。そうすると「労働生産性」は最終的に全然上がらなかったことになる。それがわかっているので企業は賃金を上げないのである。
以上は、かなり簡略化した描き方ではあるが、まさに最近25年間の日本は、およそこのような激しい企業間の競争と、それに伴う賃金の低迷が、構造的に継続してきたのである。
要するに「労働生産性が上がれば、賃金も上がる」と言う命題は、全然成り立っていない。先のNHK出演の偉い経済学者たちは、このことに全然気づいていない。
さて、「労働生産性」とは労働者一人当たりの「生産額」であった。労働者一人当たりの「生産量」ではない。
同じ数量の製品を、半分の数の労働者で生産するようになったのであれば、労働者一人当たりの「生産量」は、確実に2倍になっている。ところが、価格が2分の1になったために、労働者一人当たりの「生産額」は、変化なしと言うことになる。そして、労働者の賃金も変化なしと言うことになる。
以上の状態が長年続くと、この国の経済状況は、確実にデフレ傾向に陥ることになる。なぜなら、生産数量(すなわち生産力)は、増える一方であるのに、その生産されたものを購入する能力である、労働者の賃金が増えないのであるから、生産力>需要力と言う構図になるために、この国は根強いデフレに陥るしかないのである。
さらに、需要力が増えなければ、生産する側はせっかく増えた生産力を、縮小する以外にない。生産しても売れ残りが生じるからだ。
国全体の生産が増えなければ、すなわちGDP (国内総生産)も増えない。
以上の経緯は、日本がこの25年間、賃金は増えないし、GDPも低迷し続けると言うデフレ不況から、抜け出せないでいることの証明である。
技術革新によって、生産設備は絶えず進歩するので、生産力は増大するのであるが、賃金が上がらないので、社会は豊かになれないまま25年が経つ。その理由は競争するからであった。
それでは競争をやめれば良いのか?
いや、そんなはずは無い。競争するからこそ、企業はより良い製品をより安く消費者に提供するのだから。
競争すること自体は悪いことではない。
ただ、生産力の増大を、賃金の上昇に結びつけることのできないミクロ経済主体(企業)の宿命に問題があるのだ。なぜなら、より安い製品を提供するためには、経費を削減しなければならないが、そのためには人件費(賃金)を削ると言う方法をとるからだ。
これが、ミクロ経済の持つ救いがたい宿命であり、そのために、社会は豊かになることができない。生産力が増大するのに、豊かになれないと言うジレンマに陥るのだ。
さて、それでは、この宿命を誰が打ち破るのか?
もちろん、それは、ミクロ経済の外に存在する、マクロ経済主体である政府以外にない。「ミクロの欠陥をマクロが是正する」何の不思議もない、正しい方法だ。
政府が財政出動することによって、需要力を高め、生産力の増大に合わせるのだ。
そして、本来、国民が受けることができるはずの豊かさを実現するのだ。
その時生まれる財政赤字は、単なる貨幣発行の数字でしかないので、返済する必要は全然ないし、返済してはいけない。緊縮財政、プライマリーバランス達成は間違いで、積極財政が正しい。MMT も正しい。
