名古屋の私の家に行くと、印刷の専門書が、書棚にズラ~リと並んでいます。
印刷業界に就職して、40歳位までに買い集めた書籍です。ほとんどの物が、
1冊、5千円か、それ以上の値段です。そんなのが、何十冊、有るのかなぁ~。
どれもこれも、もう古過ぎる技術書です。版を、フィルムで焼いていた時代の
解説ですから基本的な部分でズレてしまっていますよね。モルトン水棒の話
だとか、ソリッドブラン(エアーブランは無かった)の仕立て方とかね。
「オフセット印刷は、アラビン酸と脂肪酸の闘いである。」なんて、有史以前の
話か?と思わせるような事柄が延々と書かれていたりして、歴史書としては、
まぁ、それなりに、おもしろいかも知れませんが、今の技術に応用する事は、
こりゃ不可能です。機械も資材も大きく進歩しているので、こんな古い理論は、
現在の印刷技術の基本にすら、もう成り得ません。
本は他人や、会社から貰うと、まず読まない。本当に勉強しようと思うのなら、
必ず、自分の金で本を買え!と言うのが、私の師匠からの教えでしたので、
印刷の展示会に行くたびに、その片隅で売られている専門書を、2万円以内
で買えるだけ買う!ってのが、私の恒例行事の様に成っていました。唯一の
自慢は、師匠(故・鎌野亮二氏)、直筆サイン入りの本くらいですかね(笑)。
まぁ、今時ね、5千円以上もするような、仕事の本を、自腹で買う若者なんて、
そんなに多くは居ないでしょうね。んじゃ、どうやって印刷の勉強をするの?
今はインターネットを使えば、無料で勉強出来ますよね。印刷用語だとか、
資材等の話は、かなり詳しく紹介されていたりします。
でもね今時の若者が、自分の余暇の時間を費やしてネットで印刷の勉強を
するか?って言ったら、これもまた、ごく限られた人達のみに成ってしまう事と
思います。・・・オフセット印刷技術ってね、とても難しい技術なんですよ。何も
勉強せずに、ただ印刷機のボタンを押してるだけでは、永遠に理解出来ない
ような理論ばかりだし、基本すら覚える事も出来ないんですよ。
本は買わないし、読まない。ネットで勉強する事も無い。んじゃ、どうやって、
正しい印刷技術を習得して行くのか?・・・これね、やはり、社内勉強会って
ヤツが、絶対に必要だと思うんです。毎日やれとは言いません。週に1回、
または、月に1回でも、イイですから、定期的に継続して行く事が必要です。
時間もね、30分程度でもイイんですよ。
「いや簡単に言うけど、誰が先生でやるの?教科書は?内容はどうする?」
古い言葉ですけど、「勉強は、『教師』と『教室』と『教材』が有れば出来る。」と
言われています。印刷の場合で言うならば、『教師』は、一番うるさい、お客様。
『教室』は印刷現場。『教材』は実際の仕事。・・・ほら、もう全部揃ってますよ。
「明日の印刷で、前回、色調クレームが有ったお客さんのパンフを刷らなきゃ
成らないんだけど、今回はどうやって対応して行くべきか、皆で考えてみよう」
・・・ほら、既に、お客さんと言う『先生』から課題が出てますよね。明日刷ると
言う『教材』も目の前に有る。『教室』は、もちろん印刷現場。たったこれだけで、
既に、勉強をするための全てが揃ってるんですわ。あとは『やる気』だけです。
「前回は、色調が浅いと言う事でクレームに成ったけど、これ以上、インキを
盛って濃くしたら、汚れるし、乾燥不良に成るし、後加工の折りでも擦れ傷が
出てしまえばクレームに成ると思います。印刷機で、これ以上インキを盛る
のは非常に危険だと思うのですが、何か他の方法は無いですか?」
「インキを替えるとか、ブランやエッチ液を替えるとかの対応でもダメだろうか」
「確かにそれも一つの手段かも知れませんが、資材を替えるに当たっては、
様々なテストをしないと安心して使えません。今回は、明日の印刷の話なので
資材を取り寄せる時間も、テストをする時間も無いので、それ以外の方法で、
対応する方が、安全だと思います」
「後加工の方はどう?これ以上インキを盛ると、やはり辛いか?」「あのパンフは
マットコート紙なので、ただでさえ乾きも悪いし擦れ汚れも出やすいから、インキ
を盛って濃く刷るって言うのは辛いですねぇ」 「・・・何かイイ方法は無いかなぁ」
「今、ネットで検索してみたら、『PSA成田の印刷技術』ってヤツで、いろいろ出て
ますねぇ。濃く刷る為には、無理にインキを盛るより、版のトーンカーブで3%程、
カーブを持ち上げて対応するべきだとか、マットコート紙の擦れ汚れ防止の為に、
耐摩ニスのベタ刷りを、薄くやれとか、だそうですわ~」
「それを試してみるか。刷版チームの方は、トーンカーブを3%持ち上げるって、
やり方、分かるのか?」 「いや分かりません」 「じゃすぐにCTPメーカーに電話
して、やり方を教わってみてくれ。耐摩ニスは、オレの方で手配してみる」
・・・こんな勉強会が出来ると、その現場内に、どんどん、ノウハウが溜まって行き
ますよね。印刷技術は難しい。だから勉強しなければ成らない。でも一人で勉強
していても、つまらんし、分からん事だらけで、なかなか先に進めない。現場の
みんなで知識を共有しながら、分からん事は、その場で明確にする。それでも、
分からん事は、次回までの宿題やね。ワクワクしながら、みんなで学習をして行く
と言う風土を作ってしまえば、メッチャ楽しいし、凄く理解も深まるんですよ。