今は違うかも知れませんが、30年位昔の話として聞いて下さい。
紙のメーカーさんってね、ほとんどのメーカーが、印刷現場の事など、まぁ、
全く、考えてはいません。「こんな刷り辛い紙、どうすりゃイイんだッ!」と、
印刷現場から声が上がっても、そんな事、知らん顔です。基本的にはね、
デザイナーさんとかにウケて、沢山売れる紙がベストってワケです。
その昔(今もかな?)、製紙メーカーって言うのは、日本の経済界をリードして
行くようなスゴイ業界だったので、印刷現場ごときの意見など聞く耳を
持っているはずも無かったんですわ。ですからね、印刷に困って製紙メーカー
に問合わせても、まぁこりゃ、完全にピント外れな回答だらけだったんですよ。
そんな頃に、王子製紙と三菱油化が手を結んで出来上がったのが、ユポです。
油化の「YU 」と、王子の「O 」が、ペーパー「P」で手を結んで、「YUPO 」なのだ
そうです。最初は「王子油化」と言う名前だったんですけどね、いつの頃からか、
「ユポ・コーポレーション」って言う名前に変わりましたね。
今でこそ、「耐水紙」の代名詞の様に成り、選挙ポスターはユポが当り前なんて
時代に成ってますが、初めて登場した頃は、そりゃまぁ、ヒドイ扱いを印刷現場
から受けていたんですよ。「こんなもん刷れるかッ!インキが全く乗らんぞッ!」
「静電気で紙が全く出ないぞッ!」「何とか刷ったけど全く乾かんじゃないか!」
印刷現場から、そんな悪評が立ってしまうと、こりゃ使ってもらえなく成ってしまい
ます。当時の普通の製紙メーカーなら印刷現場からの悪評など完全に無視して、
デザイナーやエンドユーザーへのアピールに専念し、「この紙が刷れなきゃ仕事
が無く成るぞぉ~」みたいな感じだったんですが・・・。
当時の王子油化さん達は、凄かったです。静電気が!って言うと、除電バーを
持って印刷現場に走り、インキが乗らん!と聞けば、印刷指導に行き、乾きが!
と言われれば、ドライヤーの紹介や、使い方を解説したり。スゴク早い段階で、
「ユポ印刷マニュアル」なんて言う、印刷現場向けの冊子を出していました。
最初の頃のユポ印刷マニュアルに関しては、私も深く関わっていまして、ああだ
こうだと、様々な意見を取り入れてもらいました。・・・ユポさんの商品開発ってね、
多くの場合、我々、印刷現場目線での開発なんですよ。
最初の頃の「イッパン・ユポ」ってヤツ。これが印刷機のブランを、すぐに真っ白に
してしまうからアカンと言うので、その点を改善したのが「ニュー・ユポ」(FGS)です。
でもこれらは、ユポ専用インキで刷らなければ成らないので、そりゃまた面倒だから
紙用インキで刷れる様に何とかしてくれ。と、印刷現場からの声で開発されたのが、
まずは「OYコート」ってヤツだったんですが、これ値段が高くてねぇ~。
そこから改良を重ね、値段は普通のユポと同じで、紙用インキで刷れる物を開発し
「スーパー・ユポ」ってのが誕生します。これの誕生は本当に凄くてねぇ、私もかなり
刷りました。ユポって、石油から作ったフィルムですから、普通の紙と違って表面の
平滑性が、凄まじくイイんですよ。ですからね、300線を越える様な高精細の印刷
には抜群の適性が有って、どんな紙よりも解像度の優れた印刷が可能なんですよ。
でもこのスーパーユポ、こいつは片面刷り専用だったんですよ。それと、UV印刷に
対する適正が無くて…。両面とも紙用インキで刷れる事。UVでも印刷可能である事。
この2点を改良したのが、「ウルトラ・ユポ」ってヤツなんです。ですから、例えばね、
LED-UV等、高感度UVで、ユポを刷る場合は、ウルトラ・ユポを選択するのがベスト
であるって事に成りますね。
ざっと、イッパン・ユポから、ウルトラ・ユポの誕生まで解説しましたが、私自身も、
ここまでの開発には少しづつ関わっていました。まぁ外野から文句を言ってたって
程度なんですけどね(笑)。・・・でもね、印刷現場目線で、開発を進めて頂けたって
言うのは、本当にありがたい話だと思っています。だからこそ今現在の、ユポの
揺るぎない地位が有るのだと言っても、決して過言ではないでしょう。
開発が進んだユポですが、やはりコイツは耐水紙です。正確には紙ではなくって、
全く水を吸い込まない、フィルムなんですよ。だから、いつも湿し水が多目の人に
とっては、厄介で刷り難い物だと思います。でもね逆に考えれば、ユポを上手に
刷れる様に成れば、水の使い方がウマく成ったって言う証拠なんですわ。そう言う
意味で、ユポを敬遠せず、「ユポを刷って、湿し水の使い方をウマくなろうッ!」って
くらいに考えて、どんどん挑戦してやって下さいな。