印刷技術 何が正しいのか? | 1級技能士・成田の印刷技術

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1級技能士・成田が、オフセット印刷技術を解説します~。

もう、ずっと昔の話、先輩が4色機を使ってて、その当時は私も他の印刷機の

機長をやっていました。「先輩、これ、湿し水多過ぎですよ~」 版面が水で、

ベタベタに成ってたので、そう指摘すると、「そんなもん、ギリギリまで絞ったら、

いつ汚れるか分からんから抜き取り検査ばかりしなきゃ成らんだろう。余裕を

持ってチョッと水を上げ気味にしといた方が楽だろうがッ!」

 

まぁ先輩と言っても、私より後に入社して来た年配者さんなんですけどね。

私よりも印刷経験は長いので、便宜上、先輩と呼んでいたようなワケです。

 

「余裕を持って上げ気味にしておいた方が楽」 そんな考え方なんですねぇ。

でもね先輩、それってオフセット印刷の基本から外れた刷り方ですよねぇ。

それに先輩の仕事を見てると刷った後で、その刷り物の検品をいつもやって

ますよねぇ。印刷時間と同じ位の時間を使って検品してるから、仕事が全く

進みませんわねぇ。それって「楽」なんですか?それとも残業稼ぎですか?

 

「印刷物は、刷った後で検品するのが基本だ!そんな事、当り前だろう!」

そうですよね、印刷中の抜き取り検査を、ほとんどしない先輩にとっては、

印刷後の検査は当たり前かも知れんですよね。でもね先輩、オレが刷った

物は、オレ一切、検品しないですよね。それでもクレームに成った事なんて

一度も無い。それに対して先輩は、検品してるのにクレームだらけだ。

 

そんな議論をしていた数日後、ユポの印刷が先輩の印刷機に入りました。

湿し水を絞れない人ですから、ユポなど刷れるはずがありませんわね~。

「なんだコレ!全くインキが乗らんぞッ!」・・・そりゃそうです。ユポは紙と

違って水を吸い込みませんから、水が多いと、ユポの表面に水が残って

しまって、次の胴のインキが、ほとんど着肉しなく成るんです。

 

それでも無理して、インキをコッテリ盛って、メチャクチャな色調で何とか、

印刷を終えたのですが、4日経っても乾かなくて断裁が出来ないんです。

納期が迫ってるので営業からクレームが来たのですが、「ユポってのは

こう言うもんだ。もう少し納期を伸ばしてもらえ。刷った次の日に断裁が

出来ると思ったら大間違いだ。UVでもあるまいし、普通の油性でユポを

刷って、次の日に断裁が出来るような、そんな刷りが出来るオペレータが

もし居たら、オレは、いつでも引退してやるわッ!」

 

あらら先輩、言っちゃいましたねぇ(喜)。・・・営業さん、この先輩が刷った

ヤツさぁ、多分1週間経っても断裁が出来ないだろうし、このコッテコテの

色調じゃ納められないでしょう。オレが今日刷るから、悪いけど新品の

ユポを、もう一度、大至急注文してよ。大丈夫、オレが刷れば、絶対に、

明日には断裁出来るようにするからさ。 (^^)v

 

ユポの印刷は大好きですから、バッチリの色調で刷って、次の日には、

当然のように断裁もOK。無事に納品する事が出来たのですが・・・。

さて先輩。どうしましょうかね。引退されるとか豪語されてましたよねぇ~。

 

ユポ印刷、大得意のオレが居るのに、なんで、わざわざ先輩に刷らせた

のか?チョッと疑問だったのですが、印刷クレームが多過ぎる先輩に、

営業も経営陣も、かなりイライラしていたようで、チョッと「お灸」のつもり

で、あえてユポを刷らせたようです。

 

先輩の刷り方は基本が間違ってるんですよ。正しくない刷り方をしている。

でも今更、後輩のオレから基本を学ぶ気は無いでしょう。でもね、先輩の

刷り方をしてたら、クレームだらけで、お客さんから、そっぽを向かれて、

仕事が無くなってしまう。それでは会社の全員が困ってしまうんですよ。

 

オレに叱られながら、基本からやり直すか、印刷機を離れ他の部署に

行くか、それとも会社を辞めるか。よく考えて、どれかを選んで下さい。

・・・結局、その先輩は辞めました。でも、他所の印刷現場で工場長に

就任されたのだとか。その現場の若手さん達、大変だったでしょうね。