印刷技術 間違った理論 | 1級技能士・成田の印刷技術

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1級技能士・成田が、オフセット印刷技術を解説します~。

印刷技術に関わらず、間違った理論と言うのは、多々存在します。

30年前には正しかったが、進化した現在のシステムでは既に無意味

どころか、弊害をもたらせてしまうような理論とか、最終的に未だ立証

されていない、推論の状態の理論で、実は間違ったものだとか。

 

もう10数年前の話なんですが、名古屋で、チョッと大き目なセミナーが

開催されました。印刷会社の社長さん、工場長さん等の首脳陣がその

出席者の大半を占めていましたが、オペレータさんも参加していました。

 

もちろん、私も列席させて頂いていたのですが、これは印刷技術に関する、

理論的なセミナーだったのです。そのセミナーで、講師の方が、ビックリ

するような理論をブチ上げたので、会場中、大ブーイングと成りました。

 

「ユポを印刷するのは難しいと思います。ユポを刷るコツとしましては、

 普通のコート紙を10~20枚ほど通しまして、その連続でユポを3枚

 流して印刷し、見当や色合わせをして行くと良いでしょう。」

 

私より若い講師の方でした。おそらく、印刷の実務経験は無いでしょうね。

印刷の研究者、と表現するのが最も的確なのかも知れません。しかし、

この理論(やり方)を紹介した瞬間、会場内が騒然と成ってしまいました。

 

「はあ~ん!おい!ふざけるなよ!」「そんなものウマく行くわけないだろ!」

「おまえ、印刷の事、分かってるのかッ!」「そんなバカな解説をするなッ!」

・・・ヤジが止まらなく成ってしまいましてね、私は黙ってたんですが、講師が

ケッコウ強気な態度を取ったので、「水の挙動ってもんを考えて下さい!」

って、我慢出来ずに叫んでしまったんですよ。  そしたら・・・

 

「なんだ、成田さんが居るのか。ならば代わって壇上で解説してくれよッ!」

「そうだそうだ、こんなバカな話を聞くくらいなら、成田さん続きをやってくれ」

なんて事に成ってしまって。まぁ、そこは私の場ではないですから、当然、

遠慮させて頂いたのですが、その後のセミナーは最悪な状態でしたね。

 

名古屋の、このセミナーでは、こう成ったから、誰一人として、この講師の話を

信用する事無く、このユポの刷り方については全面否定と成りました。でもね、

この講師が、各地でこの理論(やり方)を紹介していて、それが間違いだと、

断定する事が出来ない地方では、このやり方でユポを刷る事に成るワケです。

 

そのセミナーに参加した、地方の印刷会社の社長さんが、現場の連中を集めて、

「おい。昨日、偉い先生からユポの刷り方の極意を教わって来たぞ!おまえら、

ユポが刷れんと言ってたから今後、このやり方でやって行けばウチでも簡単に

ユポが刷れる。もうユポを外注に出すな。このやり方で刷れ。」  なんつってね。

 

それで、万一、そのやり方でユポを刷り出そうとしてしまったら、こりゃ大変です。

コート紙20枚通した後に、連続してユポを3枚通して、色合わせをして行く。

まぁ、それで色調を再現する事は可能でしょう。でもね、その時の湿し水の量は、

コート紙を刷るための、湿し水の量なのですよ。これ、ユポには多過ぎる量です。

 

「おおッ!このやり方、ユポでも簡単に色が出せるなぁ!それじゃ本刷りしよか」

なんつって、ユポだけの本刷りが始まったら、300枚刷れるかなぁ?おそらくは、

その前に、湿し水の多過ぎによってインキの濃度が無く成り、まともな色調とは

程遠い印刷に成って行くでしょうね。・・・こんなやり方でユポが刷れるワケがない。

 

今回のこの例は、かなり極端な間違いの話です。でもね、間違った理論を教えら

れて、それを信じ込んで実践している例が、世の中にはイッパイ有るんですよ。

私がそれを見付けると、「なんでこんな事してるの?」って聞きます。「いや以前に、

こうしろと教わりましたから。」・・・だいたい、そんな回答が返って来ます。

 

「それは間違ってるよなぁ。理論的にはこうだし、世の中のオペレータのほとんどが、

そんな間違ったやり方はしてないぞ!」・・・「ええっ?成田さんと、その人とどっちを

信用したらいいんですか?」 「ハハハ、そうかそうだよな、何年間もだまされ続けて、

間違った理論を信じてやって来たんだもんな。今更、急に、オレを信じる事なんて、

そりゃ出来んよな(笑)。まぁ今後共、間違ったやり方で苦労をしたまえッ(^^)v」

 

「楽に、良い物を、安定して刷る」 私の理論の基本は、一切ブレる事無く、そこに

しか有りません。でもね、私も人間ですから、間違います。誰から教わったとしても、

最終的には自分自身で決めなくては成らないのです。自分でシッカリ自信を持って

決められるよう、日々、勉強と努力を積み重ねて行って下さい。(^^)v