印刷技術 可能性の予測 | 1級技能士・成田の印刷技術

1級技能士・成田の印刷技術

1級技能士・成田が、オフセット印刷技術を解説します~。

ずっと昔の話ですが、私が機長をしていた印刷機に、新しく、新人の

助手が配属されました。中途入社で、そこそこの年齢だった事もあり、

出来るだけ早く一人前のオペレータにしたいとの事から、私の助手に

付く事と成った次第です。

 

非常に真面目で熱心な男で、その後、長い付き合いと成るのですが、

それまでは異業種に携わっており、印刷に関しては全くの初心者です。

初心者の場合は、当然の話ですが、まずは紙の扱いからと言う事で、

紙積み作業から教える事と成ったのですが・・・。

 

紙積み初心者の頃って、紙を積んで行く際、すでに積んである紙の、

一番上の1枚をズラしてしまう事がよく有りますよね。滑りやすい様な

薄いコート紙だと特にそうです。積む紙を上から乗せる時に、先に、

下の紙を押さえる様な動作を、チョッと行えばズレないんですが、

そのコツをつかむのが、初心者には難しいようです。

 

最初の頃は、ズレてしまった紙を抜き取る動作も、ギコチないので、

抜き取った紙はクシャクシャに成ってしまい、こりゃゴミ箱行きです。

でも、少し慣れて来て、ウマく抜き取れるように成ると、クシャクシャ

には成らないので、その1枚も本紙として使えますよね。

 

この新人君も、ちょうど、そんな頃でした。両面刷りの冊子を刷ってて、

片面が刷り終わり、ひっくり返して紙積みをしていた時です。またまた、

1枚だけズレてしまったので、会得したテクニックで、これを抜く。

キレイに抜けたので、その1枚も、本紙として積んだワケですわ。

 

この冊子が製本され、納品されたら、即、クレームが来てしまいました。

1冊だけページが通っていないと言うのです。(こう言う1冊の不良が、

往々にして、たまたま、お客さんの目にとまってしまうんですよね~)

・・・ん?落丁か乱丁かな?と思って、その1冊を見させて頂いたら、

なんと完全に印刷ミスでした。

 

つまり、新人君が1枚抜いて、その1枚を、もう一度積んだ時に、咬と

咬尻を間違えて、1枚だけ逆さまに積んでしまったってワケですわ~。

 

これは誰が悪いか。・・・こりゃ当然、ベテランの私が悪いですよね。

初心者の新人君には、こんな事も起こるから、1枚を積み直す時には、

充分、注意してね。と言っておきましたが、こうした事が起こり得ると

言う予測が、その時の私には出来ていませんでした。

 

私は、全ての印刷物に「針マーク」を入れてましたから、予測が出来て

いれば、印刷後に針マークを検査する事で、簡単に、その1枚を見付け

出す事が出来ますもんね。何をやらかすか分からん新人さんと仕事を

しているのだから、あらゆる可能性を予測せんとアカンですよね。

 

「その印刷機で発生したミスは、その全てが機長の責任である」と言う

のが私の考え方です。助手がボンクラで起こってしまった事だとしても、

その助手を、シッカリ教育出来ていない機長が悪いんですわ。

 

これは、私が30歳の時に経験したミスです。そして、このミスが、

私が印刷オペレータとして出してしまった、生涯、最後のミスでした。