印刷技術 経験則 | 1級技能士・成田の印刷技術

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1級技能士・成田が、オフセット印刷技術を解説します~。

経験則 = 実際に経験された事柄から、見出される法則のこと。

 

印刷オペレータの多くは、この「経験則」ってヤツを、ケッコウ持っています。

「あっ!その紙は乾きが悪いから、パウダーを多目にしろ!」なんて感じですね。

まだね、「パウダーを多目にしろ」って言う、前向きな法則ならイイんですよ。

 

「その紙は、前回、苦労したから、もう絶対にやらない!」だとか、「それは危険

だから外注にやらせた方がいいぞ」なんて言う、後ろ向きな経験則が、かなり

多いってのが、実情だったりします。

 

まぁ、仕方がないと言えば、仕方がない話ですわね。初めて相手にするような、

ワケの分からん、値段の高そうな紙で、印刷したけど、全部、裏移りしてしまって、

大損害を出して、思いっ切り叱られたとか、超辛い思いをしたとか、そうした負の

経験ってのは、どうしても色濃く、心に染み付いてしまいますもんね。

 

んでもね、そうした失敗を基にして、「次こそは絶対に成功させてやるッ!」って

考えるのが、本当の技術者だと思うんですよ。だってね、1回、失敗したって事は、

それと同じやり方をしたら、またウマく行かない可能性が高いぞ!って言う情報を

得る事が出来たって事ですもんね。その貴重な情報を集めて、改善策を作り上げ

成功させるのが、我々、ものを作って行く技術者の本当の仕事なんですわ。

 

そして、その改善策を作る時に、絶対に必要なのが「理屈」とか「理論」って言う

ヤツなんですよ。・・・前回は、この特殊な紙を刷るのに、普通紙用インキで刷った

から、裏移りしてしまった。ならば今回は、それよりも乾燥が速い、特殊紙用の

インキを使ってみよう。 ん?待てよ、裏移りは「セット」の問題だから、乾燥性より、

セットが速いインキを選ぶべきか~。 なんてね。

 

こうした理屈や理論を、シッカリ考えて対応策を練ってやると、間違った方向へ

行ってしまうことがなく成ります。・・・印刷ってね、不思議なもんで、全く間違った

方法なのに、たまたま、超ウマく行ってしまう事が有るんですわ。

 

「こういう特殊な紙の場合はなぁ、湿し水をシッカリ多目にして、インキもドカンと

盛ってやれば、簡単に刷れるぞ。オレは昔っから、そうやっ刷ってるわ。」なんて

真逆な事を言う人も、ケッコウ居たりするのが印刷業界なんですよ。

 

裏移りし易い、特殊紙を相手にして、湿し水を多目にすると良い。インキもドカンと

盛ってやると良い。・・・んで、その理屈は?どんな理論があって、そうすると良い

って言ってるの?「いや、オレは昔から、そうやって刷ってるんだって!」 んじゃ、

この紙も、それで刷ってみる?  「・・・まぁ、やめとこか」

 

乾燥の悪い、裏移りし易い紙を刷る時は、ガラスの板の上に、インキを置いた時の

ことを想像してみると簡単に理解できます。ガラスの板の上ですから、紙のように

インキが浸透することは有りません。となれば、インキ自体の力だけで、乾燥させ

なきゃ成らないワケですよね。 と、成れば・・・。

 

インキの膜厚(ガラスの上のインキの厚み)は、少なければ少ないほど、良い。

乾燥の邪魔に成ってしまう、水は、出来るだけ少ない方が良い。って言うのが、

正しい理論の基に成りますよね。あと、軟らかいインキよりも、硬いインキの方が

固体化(乾燥)しやすいし、汚れ難いので、より一層、水を絞る事が出来る。

なんて言う理論にも、展開する事が出来ます。

 

知識量や経験値の少ない人が、正しい理論にたどり着くのは、こりゃ難しいかも

知れません。んでもね、今は「ネット」の時代です。インターネットで検索してやれば、

自分の知りたい知識が、イッパイ掲載されているんですわ。こりゃ本当に超便利な

時代です。沢山の方達が、いろんな技法や理論を紹介して下さっています。

 

私が若い頃は、ネットとか無かったので、正しい理論を探すのに、本当に苦労を

しました。どこかの偉い先生が書いた、1冊5千円もするような書籍を何冊、買った

ことか。それに比べたら、ネットの情報ってのは、基本的に無料ですもんね。

 

自分が実際に経験した事柄(特に失敗例)から、見出される法則。それを前向きに

捉えて改善して行き、成功に結び付ける。その時に重要なのが、正しい理屈、理論。

我々、技術者の経験則ってのは、常に進化して行くものでありたいですね。