今回、発売された私の本の、広告ページに、
「技術に 近道なんて あれせんて」 と言う、毛筆で書かれた文字が有ります。
名古屋で活躍中の、「名古屋弁・お言葉作家・名畑さん」に書いて頂きました。
我々、ベテランの印刷技術者は、たくさんの失敗経験を元に、最善の状態で
印刷物を作り上げるための、最短の方法を熟知しています。一切の遠回りを
避けて、作業効率を上げ、尚且つ、ほぼ完璧な印刷物を仕上げる。
何十年もの苦労の結果、ようやく見付けた「最短距離」で仕上げる方法です。
我々にしてみれば、「こうすれば簡単に出来るのになぁ~」なんて気持ちで、
若いオペレータさん達の作業を見る事が多々有ります。
でもね、その若いオペレータさん達に、我々が見付けた「最短距離」を教えても、
なかなか理解してもらえないし、実践もしてもらえません。・・・こりゃね、当然の
話なんですわ。
いくら近道を教えても、遠回りを経験した事の無い人には、それが本当に、
一番の近道なのかが分からないんです。さんざん遠回りを経験させてから、
近道を伝授すれば、一発で、その有効性が分かるんですけどね。
「技術に近道なんて有れせん」 何年も何年も、散々遠回りを経験させて、
その経験の末に、「こうすれば、もっと早いし楽なんじゃない」と、近道を教える。
その時、初めて、我々ベテランの言葉が、ようやく心に響く。技術者を育てるって、
お互いの忍耐力の勝負なんだと思っています。
また、機械も資材も、どんどん進化しています。我々ベテランが、最善の近道!
としていたものが、いつの間にか、過去の遺物に成ってしまっている事も多々
有るんですわ。そう言う意味も有って、若い人達のやり方を、じっと静観する。
ひょっとすると、そんな中から、若い人達が我々より、もっと優れた技術を発見
してくれるかも知れませんもんね。
ベテランは、ただ頭ごなしに叱ったり、自分の技術を無理矢理押し付けたりする
のではなく、じっと見守り、若手の成長を促すような、そんな助言をしてやる。
そう言うのが本当の、技術継承なのだと思っています。