印刷Q&A 上質紙の乾燥 | 1級技能士・成田の印刷技術

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1級技能士・成田が、オフセット印刷技術を解説します~。

● 質問

 

質問は、上質紙に両面4色印刷時の、乾燥についてです。

持ち込みデータで上質紙110Kに両面印刷をしましたが、セット乾燥が遅く

一日置かないと印刷出来ませんでした。また、画像の濃い部分では裏移りしかけてました。

何とか製品にはなったのですが、上質紙に印刷する時の注意点など有れば教えて下さい。

4色カラーで175線でデータ通り(プロファイルの設定なし)に出力したCTP版です。

コート紙やマット紙で印刷すると乾燥には長くとも20分程度で裏面が印刷できるのですが

…よろしくお願いします。

 

● 回答

 

インキって、缶に入ってる時とか、インキ壺に入れた時って、ダラダラと流動性を持って、

流れますよね。流動性が有る、流れるって事は、インキが「液体」だって事なんですよね。

これが、紙の上に乗って乾燥すると、印刷された紙を傾けても、インキが流れるような事は

有りませんよね。つまり、インキが乾燥して「固体」に成ったってワケです。

 

液体だったインキが、固体に成る。これを「乾燥」って呼んでるワケですわ~。

今回は、油性印刷での話ですので、これは「酸化重合」と言って、空気中の酸素と化合、

つまり、化学変化を起こす事によって、固体化(乾燥)するってワケですわね。

 

酸化重合と言う化学変化にとって重要なのは、まず「酸素」、そして「温度」なんです。

ですから、例えば、冬の寒い時に比べれば、夏場の暑い時期の方が乾燥が速いですね。

インキの乾燥はね、3つの段階を経て、完全乾燥へと進みます。

 

まず、第1次乾燥。「セット」とも言いますが、指で触ってもインキが、指に付かない程度の

乾燥状態です。印刷されたインキの表面は乾いてますが、中身は、まだ固体化していない

ですから、この時点で、例えば断裁をかけると、中の生乾きなインキが飛び出して裏移りが

起ってしまいます。

 

第2次乾燥。中身まで固体化して、断裁や折り等、物理的な圧力を加えても、大丈夫な

状態です。でもね、この時点でPP貼り等、熱(化学的な圧力)を加えると、インキが元の

液体に戻ってしまいます。これが大丈夫に成った状態が、第3次乾燥です。

 

今時は、インキも紙も高性能に成りましたから、コート紙の場合だと、セット(第1次乾燥)

までに掛かる時間は、5分程度でしょうか。それに対して、コート層を持たない上質紙の場合、

パルプ繊維にインキが浸透するようなイメージですから、セットそのものが遅いんですね。

 

工場環境に、かなり左右されてしまいますが、朝一番で刷った上質紙のカラー印刷物を、

その日の夕方に、反対面を刷れれば、まぁ、ヨシとしたもんじゃないですか。まぁそれでも、

圧胴にインキが取られないよう、細心の注意が必要かと思います。

 

一晩放置して、次の日に仕上がり面を刷る。・・・これでもトラブルが出るようならば、工場の

環境とか、使用しているインキの性能、湿し水の性質(エッチ液の量)、機械のメンテ状態等を、

基本的な部分から見直してみた方が良いかと思います。

 

インキの性能ってね、とても重要なんですよ。コート紙等で、非常にクイックセットのインキ

でも、上質紙には全く適性が無い物も有ったりします。あと、エッチ液の入れ過ぎはアカン

ですよ。エッチ液が多いと、どうしてもインキが盛り気味に成ってしまいますから、即座に

乾燥不良に成ってしまいます。

 

とにかく、目安としては、一晩放置して、ノントラブル。それを基準として、それ以上を望む

のであれば、徹底的に水を絞って、インキ量も少な目にする。水もインキも少ない状態

ですから、その性能が、モロに現れますので、いろいろ選択してみる事が大切です。

 

ユポにしても、上質紙にしても、一つの用紙を完全に極めるってのは、とても難しいこと

だと思います。印刷機の状態や、工場環境の差等があり、こうしなさい!と言う事を、

なかなか言えないってのが実情なので、自分で試して行くしか有りません。しかし、その

研究過程で得られる情報は非常に貴重です。1つを極めれば全てに役立ち、飛躍的に

技術力を向上させる事が出来ます。是非、いろいろ試してみて下さい。