印刷Q&A インキ壺の出し方 | 1級技能士・成田の印刷技術

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1級技能士・成田が、オフセット印刷技術を解説します~。

●質問

印刷機での、インキ壺の出し方に関して質問が有ります。
インキ壺は、壺の開度と、元ローラーの回し方でインキが出て行く量が
決まると思うのですが、自分は先輩から、壺の開度は出来るだけ狭くして、
元ローラーを、最低でも 30以上は回すようにセッティングしろと教えられ
ました。ずーっと、そのやり方で印刷をして来たのですが、今回、新しい
印刷機に成って、壺の開度を狭くする事が出来ず、元ローラーの回転量が
4とか、3とかでやっています。非常にやり難いのですが、こんな方法も
有りなのでしょうか?それとも、メーカーに相談するべきでしょうか?

●回答

なるほどねぇ。先に言っておきますが、実は私自身も、あなたの先輩と同じで、
壺の開度を小さくして、元ローラーを、40とか50とか回す人なんですよ。
もっと言うなら、元ローラーが回せない(インキが出過ぎてしまう)ような、
そんな機械では、まともな色調調整が出来ないとまで思っています。

んでは、二つのタイプの、メリットとデメリットを考えてみましょう。

Aタイプ=壺開度3、元ローラー回転数 40
Bタイプ=壺開度30、元ローラー回転数 3

この、A・B、二つのタイプで、インキの供給量が同じ、つまり、同じ濃度で
印刷が出来る状態だったと仮定しましょうね。(あくまでも仮定ですよ)

Aタイプの方は、薄いインキ皮膜を「面状」で呼出しローラーに転移させて
行きます。それに対して、Bタイプの方は、ボテッとした厚い皮膜のインキを、
線状と言うか「棒状」で、呼出しローラーに転移させるんですね。

インキローラーの仕事と言うのは、インキを、インキ壺から刷版まで運ぶこと
なんですよ。であるならば、薄い皮膜の軽いインキと、ボテッと分厚く重いインキ
とでは、どちらが運びやすいでしょうか?

そりゃ、軽い方が運びやすいし、安定性と言う面から考えても絶対にイイですよね。

インキ壺のゼロ設定って、ありますよね。コントロールテーブル上で、壺開度を
ゼロにした時に、元ローラー上のインキ皮膜を、どんな厚みにしてやるか?って
話なんですが、私が昔、使っていた、高級な印刷機は、このインキ皮膜の厚みが
3ミクロン(0.003mm)だったんですよ。これは本当に薄い皮膜です。
そして、この高級機、3ミクロンを計測するためのゲージまで付属していました。

最近の印刷機って、このゼロ設定が、非常に甘い物が多いですね。ゼロの基準値が
10ミクロンのような機械も有りますね。この機械で、3ミクロンゲージを使って
ゼロ調整をしてみると、メチャメチャ安定性が悪いんです。ゼロ点も簡単に狂って
しまうし・・・。

何が違うのか。簡単に言えば、お金の掛け方ですわ。この部分の精度を高くする
ためには、元ローラーの真円性だとか、軸受の精度、フレームの加工精度など、
コストの掛かる問題が、イッパイ出て来てしまうんです。

印刷機械も、コストダウンの時代ですから、こうした所に、コストを掛けるのが
難しいのだと思います。・・・でもね、この部分ってのは、色調を再現するための
一番の根源に成る部分なんですよ。是非とも、高い精度を出して欲しいですね。

今回の質問者さんのように、Aタイプで仕事をして来た人が、Bタイプに移行
するのは、ケッコウ難しいと思います。・・・ちなみに私は、絶対にイヤです。

是非一度、機械メーカーさんと話をして、改善策を求めてみて下さい。