印刷Q&A 紙剥け | 1級技能士・成田の印刷技術

1級技能士・成田の印刷技術

1級技能士・成田が、オフセット印刷技術を解説します~。

●質問

最近の冷え込みで、インキが硬いせいか、ピッキング(紙剥け)が激しくて、
クレームに成ってしまっています。インキを軟らかくする他に、何か方法は
ないものでしょうか?

●回答

紙剥けはイヤですよね~。例えば、多少の色調ムラとか、若干の汚れとかは、
一般の人達には、分からないかも知れませんが、ベタ部分の紙剥けで、白い
ピンホールが出てしまったりすると、こりゃ一般の人達にも分かりますもんね。

我々がやってる印刷って、紙にインキを着ける仕事ですよね。例えばですよ、
インクジェットプリンターのように、インクを紙に吹き付ける形態の印刷だと、
紙の表面強度って、あんまり関係ないんですよ。

スゴク極端な話なんですが、紙に印鑑を押す時の事を考えてみて下さい。
普通の朱肉って、そんなに硬くはないですから、まず問題はないんですが、
例えば、コチコチでネバネバの、メチャクチャ硬い朱肉が有ったとしましょう。

この硬い朱肉を印鑑に着けて、紙に印を押すとします。紙に印鑑を押しつけるって
ところまでは、朱肉が硬かろうが、軟らかかろうが、問題は無いですよねぇ。
しかし、印鑑を紙から離そうとした時に、問題が起きてしまうんですよ。

軟らかい朱肉なら、イイんですが、コチコチでネバネバの朱肉だと、印鑑を
紙に押し付けて、さぁ離そうとした時、印鑑と紙が、くっ付いてしまって離れない。
なんて事が起きてしまうワケですわ。これを、無理やり引っぺがそうとすると、
紙の表面が、ベリッと、破れてしまうってワケです。

我々のオフセット印刷も、印鑑と同じです。ブランケットと紙が密着して、インキを
紙に転写して行くんですが、転写した直後に、ブランケットと紙を、引き離すと言う
作業が有るのです。この時に、インキが硬いと、紙の表面が剥けてしまうってワケです。

紙の表面強度が低ければ、軟らかめのインキでも、表面が剥けてしまいますよね。
要するに、ピッキング(紙剥け)ってのは、インキの硬さ(粘りけ・タック)と、
紙の表面強度とのバランスで、起こるか起こらないかが決まるって事ですよね。

と言うことは、紙剥けが起きたら、インキを軟らかくしてやるってのが、対処方法って
ことに成るのですが・・・。 ここに、大きな落とし穴が有るんですわ~。

インキを軟らかくすると、硬いインキの時より、汚れが出やすく成ってしまいますよね。
汚れやすく成るから、湿し水を多目にしなけりゃアカンですよねぇ。・・・ここが問題!

紙ってね、乾いた状態で、その表面を指でゴシゴシ擦っても、ビクともしないですよね。
ところがです。紙の表面を、霧吹きか何かを使って、水で濡らしてやったら、どう?
水で濡れてしまった紙の表面って、とても弱いですよね。少し指で擦っただけで、表面が
ボロボロと傷んでしまいますよね。

我々のオフセット印刷ってヤツは、普通の場合、湿し水と言う「水」を使いますよね。
この水が、版面から、ブランケットを経由して、紙の表面まで濡らす事と成るんですよ。
と、言う事はです。湿し水が多いと、紙の表面強度が一気に低下し、紙剥けが出やすく
成ってしまうって事なんですわ。

インキを軟らかくするのはイイんですが、やり過ぎは絶対厳禁ってことですね。
そして、湿し水を思いっ切り絞ること。4色とかの多色刷りの場合は、例えば、
1胴目の墨で、水が多いと、2胴目の藍で、紙剥けが起こりやすく成ります。
とにかく、紙に必要以上の湿気を与えないことに気を使ってみて下さい。