小説「絵慕の夕風」--その9(ヨット)-- |         きんぱこ(^^)v  

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      砂坂を這う蟻  たそがれきんのすけ

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≪沖田≫R大3回生SFWSF


≪杉山≫R大3回生軽音絵慕のウエイター


≪今田≫R大3回生沖田と高校からの友人


≪三本木≫R大3回生絵慕のウエイター


≪シゲさん≫knk大3回生絵慕常連ヨット


≪徳永≫K教育大3回生沖田と高校からの友人


≪浅田≫R大4回生 WSF軽音絵慕のウエイター


《柿沼康子》K女子大4回生絵慕のウエイター ヤッチン


《大谷裕子》S女学院1回生アイ身長168


《井上美穂》S女学院2回生杉山のGF軽音 ロングストレート美人


《田中悦子》S女学院1回生 エッチャン身長166


(SF=サーフィン、WSF=ウィンドサーフィン)


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沖田の下宿にシゲさんが遊びに来ていた。

「オキちゃん来週の土日空いてないか?」

「来週、空いてるけど」

「ヨットに乗りたーないか」

「ヨット、乗りたいけど」

「来週一緒に来てぇな」

「ヨットって、あのでっかいやつか、かまへんけどなんでそんな高いもん買ったんや」

「ちゃうって、乗せてもらうんや、あんなもん買えるわけないやろ、ははは」

「そらそうやわな、ブルジョワの持ち物やもんな」

「ヨットにどんなもんがあるか知ってるか」

「そら、あの帆を張ってザァーて行くやつやろ、海賊船みたいなんもあるし」

「ハッハッハ、確に、ヨットはな、まずエンジンが付いてるやつと付いてないやつとがあんね」

「エンジン付いてないのが普通ちゃうんか、ほんで?」

「海賊船の映画でも見すぎやで、エンジンが付いてるやつをクルーザー、付いてないのがディンギー言うねん」

「なるほど」

「ディンギーは小さいヨットやで、一人乗りとかニ三人乗りとか、帆も一つしか無かったり、小学生でも乗ってるわ」

「ほー」

「クルーザーはエンジンが付いてるけどエンジンは滅多に使わへん、中はベッドもトイレも、大きいのは台所もあんねん」

「ええなぁ、そこで住めるなあ」

「ヨットってどうやって風上に行くか知ってるか?」

「風上、そう言えばどうすんねんやろなあ」

「ヨットは、大体風上に45度位しか登られへんねん」

「と言うことは、風上に行くときはギザギザにターンしながら登らなあかんな」

「そういうことや、ギザギザにターンするときは『タックーッ』って大声出して、船を90度回すねん。
クルー言うて、舵(かじ)を持っている人は舵を動かして船を回して、その時スキッパー言う人は、セールつまり帆のことやな、セールと船を結んでるシートつまりロープやな、このロープを外して反対側にくくり直さなあかんねん」

「なんでそんなことせなあかんねん」

「そうせんと風が反対から入ってくるからや。ヨットの真ん中に立ってるポールあるやろ」

「ああ、ニョキっと立ってる棒やろ、知ってるで」

「あれをマストって言うねん、帆のことをセール、ほんでマストの下の方に横に出ている棒があるやろ、それをブーム言うねん、そんでブームやセールをくくってるロープをシート言うねん。これだけは覚えていてーな」

「おう、覚えた。」

「よっしゃ、そしたら来週いこか、ヨットレースやで」

「ヤデって、え、俺も出るの、ええ、いきなりかい」

「そうや、大丈夫や」

「大丈夫やって乗ったこともないのにか、ははは」

「大丈夫やって、俺がサポートしたるし」

「なんかしんぱいやなー、けど乗ってみたいなぁ」

「せやろ、ワコールの女の子ばっかりのクルーザーも出るし、石原祐次郎が持ってるクルーザーも走るらしいで」

「どこですんのやったかな」

「琵琶湖や。琵琶湖大橋の手前にヤマハマリーナがあんねんけど、その沖からスタートして、琵琶湖大橋をくぐって琵琶湖の北のほうに『沖の白石』っていう岩が出てるとこがあんねんけど、そこを回って帰って来るねん」

「何隻出るの?」

「百艇(てい)ほど出るらしいで」

「すごいな、出たいな」

私はスタート地点にクルーザーが百艇並んで、何故か隣にワコールのクルーザーがいて、かわいい女の子が乗っていて、我々と話をしている光景を想像していた。

「ほな決まりや、俺らが乗るのは宇治の医者が持ってるクルーザーなんやけど、前の晩に行って前夜祭パーティーに出てからそのクルーザーの中で泊まんねん」

「おっ、それゴッツーええやんけ」

「オーナーは日曜に来るから二人でクルーザー独占や、ただし、多分一番小さいクルーザーになると思うで、小さい言うても19フィートあるから中で二人くらい余裕で寝れるから」

フィートと言われても大きさはよくわからなかったが普通車の二倍くらいの長さだろうか。

シゲさんが帰っていったあと本屋に行ってクルーザーの本を捜した。

本には豪華なクルーザーの写真があって、それを見ているとレースより土曜の夜が楽しみになってきた。

それと同時に、今まで学生生活を無意味に過ごしてきたが、自分自身が何か目的を持って生きて行けるキッカケを掴めそうな気がしていた。

中卒や高卒の友達もいた。彼等は私がこうやってボーッと生きている間に真剣に生きていた。

このままだと大学では何も得るものはなかった。

【用は何をしたいかというビジョンと、そのためにどうして行かなければならないかというプロセスを、確り考えて生きると何がしか充実した結果が帰ってくるものだ。

勉強と言うものは学校でなくとも幾らでも出来る。数学や英語だけが勉強ではない。人の付き合い方や自分を勇気付けて生きていくことも勉強だ。

ビジョンとプロセスとそのための勉強。

しかし学生にはビジョンが定まらないし、働く若者にはビジョンが小さくなってしまいがちだ。

もちろん器は大きければいいと言うものでもない。自分の器に合った生き方が一番いいだろうが、この器を本当に知っている人間は誰もいない。自分で捜すもの。】

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小説「絵慕の夕風」--その10--

小説「絵慕の夕風」--その1--

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