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帰れぬ心の故郷 --展開-- (1章へ)
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世の中には色々な人がいるわけだ。
3歳、4歳の頃はどんな子供でも純粋な心を持っているはずだ。
そこから、いろんな事が、我が身に降りかかって来る。
そして、人それぞれ、自分の人生が流れて行くのだろう。
そして、生きている間に幸せか不幸か、小さくも大きくも迷いや選択の機会にめぐり合う。
または、自分で決められない状況に追い込まれたりもする。
そうなった時に、遅かれ早かれ、自分をどうして行くかが悩みとなるだろう。
その、悩みの大小は関係ない。
世間ではどうであれ、自分にとって大きな悩みなら、そう言う事だ。
大きな悩みは頑張って考えなくてはならない。 妥協すると、そのツケが廻ってくる。
静かに・・・。 時には、自分でも気付かないかもしれない。
10月24日日記
「優生、元気にしているだろうか・・・。風邪、ひいてないか?パパがいなくて、寂しいだろうな。パパ、優生に会えなくて、ごめんなさい。パパも優生に会いたくてたまらない。優生が「パパ・・・・」って寂しそうにしているところを毎日想像しています。パパは優生の事が、世界で一番好き。優生にどんなことがあってもパパは優生の味方だよ。 保育園で運動会があったんだろうね。パパがいたらもっと楽しかっただろうな。 こんなことになって、優生に寂しい思いをさせてごめんな。パパは何処にいても優生を応援してるよ。」
嫁とは音信不通だった。
実家に電話しても教えてくれなかった。
家裁に行っても本人には会わせてくれない。 嫁との心の修復は・・・自分の心に聞いても何の感情も沸かない。
私が悪い。
嫁が悪いのではない。
しかし、子供とも会わせさせないことには憤りを感じる。
しかし、それは私が原因だ。
自分の体は間違いなく悪化している。
本当は、もう消えてしまいたい。
しかし、子供の為に十分な稼ぎが出来ない嫁だけにするわけにはいかない。
自分の性癖が悪いのだ。
もし、嫁が倒れたら、私がなんとかしなければ・・。 そう思うと、くたばるわけにはいかない。
競馬をやめる。
しかし、病気を考えると・・・・・。
実業の才能でもあればよかった。
(結果を出して、けじめをつけよう・・)
競馬で勝負を始めて3週間が過ぎた。
それまで、大阪を離れて京都や神戸に寝泊まった。
競馬は6度目の挑戦になった。
この日は京都競馬場にいた。
(京都競馬場のパドックは正円だ。)
貯金は20万と少しになっていた。
その日は朝から調子が悪かった。
1番人気が絡まないので当たらなかった。
要するに、私だけではなく、賭ける人全てが予想しにくいレースばかりということだ。
4レースをパスして、考え直した。
16頭以上のレースは、思い切って穴、大穴狙いに変えた。
10番人気から16番人気の中から3頭選び、今までの賭け方に追加した。
当然掛け金は増えるが、しかたがない。
貯金が無くなるまでの勝負だ。
5レースから、再び賭け始めた。
6レースの中山は荒れた。
3人気、12人気、10人気。
三連複が当たった。
配当は76万馬券。
一つ400円で賭けていたので約300万の勝ちとなった。
再び100円から倍倍で賭け始めた。
100円、200円、400円、800円、1600円、3200円。
ここまで当たらない。
だんだん焦りと冷や汗が出てくる。
中山8レース16頭立て、1600m芝。
次は6400円。 40通りなので24万円。
(このあたりが掛け金の限界だな・・・)
ここで11番人気が絡んで、三連複で21万馬券が当たった。
約1300万円。
9レースからは三連単。
1レース100通り(1万円)で100円から倍倍で賭けて行く。 ひとつ6400円で640000円。 11レースの中山だ。
ここで、13番人気が絡み、56万馬券が当たった。
約3400万。 これ以上は望めまい。
トータル5000万弱の勝ちだ。
こんな事は一生に一度しかない。
(これで人生の運を全て使ったかもしれない)
頭の中は完全に麻痺していた。
(これで、子供が大きくなれるまでのお金は確保した。それで十分)
その日は換金せずに、競馬場を離れた。
もう大丈夫だろう・・・そう思って大阪に戻ることにした。
ポケットに入れた当たり馬券を何度も何度も確認した。
それでも不安になり、サイフに入れた。
入れた後に不安になり、当たりの1枚は、再び胸ポケットに差し込んだ。
それでも不安になり、店で小さなバッグを買って1300万を換金するために梅田の場外馬券場に行って換金した。
「なんか、紙袋に入れてちょうだいや」
「・・・・」
係員は面倒くさそうな顔をして、換金作業に入った。
紙袋に入ったお金を確認もせずにバッグにしまいこみ、場外を出た。
直接自分のマンションに戻ろうと思ったが、ヒルトンに泊まることにした。
翌日、ボストンバッグを持って換金に行った。
時間がかかったが、現金に換えてすぐに銀行に行った。
子供の通帳を作って3000万を入れた。
(拳銃はいらないな・・大阪湾に捨てよう・・)
そう思って、久しぶりのマンションに戻た時に、二人の男に囲まれたまれた。
(なにわ警察。この右手100m程の所に通天閣がある)
「ちょっと一緒にきてくれるかぁ」
「ん・・・なぁっ・・・・何ですか?」
「浪速警察のもんやけど、ちょっと聞きたいことがありましてね。」
「はぁ?どういうことですか」
頭の中で「意識するな!迷惑そうに振舞え!」と叫んでいた。
「うん、ちょっとある事件で、いろいろと聞き取りまわってるとこなんや、内密事やから協力してぇな」
「・・わかりました・・・・」
マンションを出るときに、拳銃は「広辞苑」をくり貫いて本の中に隠していた。
私は覆面パトカーに乗って浪速警察に向かった。
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