小説「帰れぬ心の故郷」--5章-- |         きんぱこ(^^)v  

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      砂坂を這う蟻  たそがれきんのすけ

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帰れぬ心の故郷  --賭け--  (1章へ)

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天気が良い日の競馬場はとても気持ちがいい。


意外だが、想像よりも静かな所だ。

G1競争が走る時はさすがに人ごみで一杯になるが、普通のレースの時間帯は人が少ない。

というよりも、人は数万人いても競馬場は想像より広いので気にならないのだ。

馬が走る時も、最後の直線で目の前を通り過ぎる時だけ、ドゴドゴドゴドゴ・・と音がするくらいである。

賭け事が好きでない人も、のんびりするには良い所だ。

秋とは言え、天気が良ければ寒くはない。

レースが始まるまでは、芝生に寝転がって紺碧の空を見上げていた。



kyo


賭けずにレースを見ると、のんびりした陽気と気持ちの中で、なんだか必死で走っている馬や騎手が滑稽に見える。


空を見上げながら考えていた。


(もう、賭け事はやめたいな・・・・・・今の結果が出なければ・・人生一つあきらめよう・・)


今の賭けパターンを1ヶ月やってみるつもりだった。

それでダメなら、嫁子供が苦しむ事になるかもしれないが、仕方がない。

大きな見返りを求めるより、マイナスになる出費を抑える生き方に切り換えよう。

最初からそうしていればいいのだけれど、私の性格はそうではなかったということだ。


糖尿病は風邪からでも突然発症することがある。


私がそうなのだ。


要するに肝臓がやられれば肝炎。膵臓がやられれば糖尿病になるだけのことだ。


初めて知った時は、ショックだった。

しかし、症状がないので、実感はなかった。


そういう意味でとても恐ろしい病気だ。


人間は、膵臓のランゲルハンス島と呼ばれる小さな無数の細胞で作られるわずかなインスリンが無ければ、死ぬ。


糖尿病は、ご存知の通り血糖値を見る。

血糖値が高いと高血糖状態。

大体、空腹時160以上の状態が続くと糖尿病だ。


300以上の状態が続くと恐ろしいことが起きてくる。

心筋梗塞、腎臓や内臓の異常、そして失明。

よく、白い杖を付いた人を見かけるが、その多くの人は糖尿病で失明した人だ。

失明は突然やってくる。


糖尿病ではなくとも、高血糖と低血糖が激しくなると同じことが起きうる。


低血糖は、もちろん血糖値が低い状態。

糖尿病患者ではなくとも、低血糖になる人は多い。

低血糖の場合や、インスリン過多の状態になると、これも怖い。

体のエネルギーや栄養を供給するために必要なものがインスリン。

分解する基となるものが、ブドウ糖だ。

血液中のブドウ糖が少ない状態が低血糖、多過ぎると高血糖。

ブドウ糖が足りないと、インスリンは体内に蓄積されている脂肪を分解してブドウ糖の代わりに使う。

だから、低血糖の場合は急激に痩せる。

脳以外の部分には脂肪があるので痩せきるまでは問題ない。


しかし、脳には脂肪が無いのだ。


つまり、脳の中ではエネルギーに変えることが出来ない。

つまるところ、脳がやられる。

これは、極端にやられると、文字通り生き地獄となる。

一時的に対処する方法は、飴を食べたり、缶コーヒーを飲む。

恐ろしく沢山の糖分を含んでいるからだ。


血糖値が200以内の頃は自覚も無いので普通の人間として生きてしまう。

医者に忠告されても時間がないのタカかを括って軽視する。

血糖値が200を常時越えてくると、体に少しずつ異常が出てくる。

味覚が無くなる、嗅覚が落ちる、放尿力が低下するなどだ。

味覚が落ちると食べ物はいいものを食べても美味しくなくなる。


こんな不幸はない。


色々な症状が出だして初めて、恐怖が芽生える。


いつ失明するのだろう。

いつポックリ逝くのだろう。

透析をしなくてはならなくなったらどうして生きればいいのだろう。

食事がつまらない。

匂いがわからなくなる。

セックスが出来なくなる。

人生を焦りだす、または諦め出す。

仕事に全力を出し切れない。

自分が生きることで頭が精一杯になってしまう。

自分の未来が短くなる・・・人と付き合いたく無くなって来る。

娯楽に興味が無くなる。(人の成功話やヒーロー話が煩わしい)


全ての糖尿病患者がこの全てを備えるわけではない。

恐怖を知った時の糖尿病患者の心境をワークサンプリングしただけだ。


この状況で自分の未来を想定して生きなくてはならない。


私は、焦って競馬を始めた。

宝くじは当たらない。

パチンコは時間がかかって、勝っても大したことは無い。

お金が欲しいならするだけ無駄だ。

株は、勝っても2~10倍程度だ。

株をするのが一番確実なギャンブルかもしれない。

しかし、纏まった準備金が必要だ。ここが問題になる。

株が出来ない時に、次に勝てる可能性が高いのが競馬だろう。

競馬は株に比べて準備金が小さく見返りは大きい。

しかも当たる確立はギャンブルの中では一番高いだろう。


2倍から10000倍。


現在JRAの高配当記録は、3連単で、100円が1800万円。

ロト5と同じくらいだ。


3連単

2005/10/22,12R東京ダ1400 16人気12人気3人気
\18,469,120-
2006/09/09,09R中山芝1200 8人気12人気15人気
\16,559,120-
2005/04/09,09R福島ダ1700 12人気10人気9人気
\10,149,930-
2007/05/06,09R東京芝1600 17人気1人気18人気
\9,739,870-
2007/04/07,09R中山芝1600 11人気16人気8人気
\4,904,740-
2007/02/10,09R京都ダ1400 13人気12人気4人気
\4,904,630-

三連複の場合
2006/09/09,02R東京 13人気12人気8人気
\6,952,600-
2007/05/19,中京 4人気11人気16人気
\1,934,320-
2006/12/02,01R中山 9人気7人気13人気
\1,669,590-

その他、
馬単の最高配当は\1,498,660-
馬連の最高配当は\502,590-
ワイドの最高配当は\105,370-
枠連の最高配当は\123,410-

となっている。


12番人気が絡むと荒れる。

また、荒れるレースは1600mから1200mのレース。

1000mや2000mより長い距離のレースは荒れない。

関西のレースは荒れても中荒れ。
大荒れは東京と中山、中京競馬場のレースに偏っている。


ここまで大きな配当は、年に1,2回程度だ。

しかし、10万馬券レベルなら、毎日数回出ている。


私の考えた賭け方さえ守りきれば大きく負ける事は無いはずだ。

午前中でいかに貯金ができるかなのだ。


(神様・・ここ何度かの挑戦で、一度でいいから助けてくれ)


この日は、午前中に7万程の貯金が出来た。

2万円をサイフにしまい、残りを使う。


それを夕方の3連単に賭けたが・・ダメだった。

しかし、通算7万円の貯金が出来た。


(また、来週だ。雨は降らないでくれ・・・・)


雨が降ると荒れる。そのくせ大荒れはないので厄介だ。

大荒れは、前日に雨が降り、当日快晴の時に起こりやすい。


(まだまだ、そう簡単には上手くは行くものか)


京都に来たので西本願寺の二筋裏手(西側)にある「やすい」に行こうと思った。


このあたりは、通称「島原」と呼ばれていた地区で、昔は楼閣が立ち並んでいたらしい。

今はその面影もない。


普通の角家をお好み焼き屋にしたような古びた小さな店である。


しかし、ここのソースは、一度食べると病みつきになる。


最初にビールとスジやトリを頼む。


古びたカウンターに埋め込まれている鉄板で焼かれる。

焼きあがると赤い色をした辛口のタレをつけながら食べる。

後で、焼きそばやお好み焼きを頼んで終わり。


それだけだ。


言うなれば、タレを舐めに行くようなものかもしれない。


舌の感覚が鈍った私でも美味しかった。


(こんな事をやってては行けないが、結果を出すまでは頑張ろう・・)


京都駅まではかなり距離があるが、行き交う親子連れを見ながら歩いた。


(どうかは解らないが、子供に手紙を書こう・・・・)


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