次の競馬まで十五分。
わたしが急いで向かった先は、銀行。
とうとう、翌月の返済に使う三十万をおろした。
(これが無くなると、元の苦しい返済生活にあともどりだぞ!)
私のなかで、そう叫ぶやつがいた。
(なんとか少しでも戻しておかないと!)
(いままで当たらなかったのに当たるわけないじゃないかっ!)
(これだけ当たらないと、確率ではもうすぐあたるよ、当たったところでやめないと。)
(今やめろっ!帰れ!馬券売り場にもどるなぁ!)
馬券売り場へ急いで戻る脚が止まることはなかった。
急いで新聞をみて馬券をかった。
ギリギリ間に合った。
しかし、レースは予想とは違った。
残すところ一レースのみとなった。
そのレースは11頭立て。
しかし7番が出走取り消しで、10頭立てとなっていた。
騎手はレースのことも考えるが、馬の様子にも注意を払う。
歩き方や様子がおかしければ直ぐに申し出て、馬体検査が行われる。
医師が故障と判断すれば出走取り消しとなる。
スタート前に取り消しになると、購入馬券はその馬番に関わる額だけ返還となる。
目の下に熊を浮かばせた顔を、新聞に近づけて、最終レースを見た。
人間、なんとしても勝とうと思って新聞をみると、常識で予想しだす。
常識の予想とはなんだ。
未来のことに、常識の予想などないはずだ。
天の声。
そんなものがあると聞く。
私は投票用紙に、
常識を名乗る男の考えを元に記入した。
もういちど、新聞を見直した。
(4番の馬は7歳かぁ、この馬昨年も勝ってるし調教もよくなってるなぁ)
私は
一着 7,8
二着7,8,5,2
三着7,8,5,2,1,6
もう一度新聞をみた。
また4番に目が止まった。
(それが来る、それを買え!)
誰かが私に叫んだ。
4番は単勝40倍。
私のなかに浮かんだ順位は、
一着 4番 30倍
二着 5番 45倍
三着 6番 6倍
だった。
常識を名乗る男が出てきた