--小さな穴--
私の会社は少しづつ体制を整えてきていた。
売上も伸びて、従業員のアルバイトを含めて5人になってきた。
借金も驚異的に解消して行き、あと半年もあれば、全て返済出来る勢いであった。
私は相変わらず、仕事に全力投球をしていた。
季節は梅雨も明けて、暑い毎日が続くようになっていた。
そんな折、些細なことで風邪を引いた。
(風邪なんか引いてる場合じゃない・・・・気合でなおるわい!)
仕事が入ってくるときは、忙しくても苦痛ではない。
仕事が無いのが一番辛い。
仕事がないとき、仕事ネタを確実にするために、金もないのに広島まで商談に行ったことがあった。
商談は上手くいきそうだった。
しかし、帰りが遅くなり、終電に間に合わなかった。
真冬だった。
入金前で財布には帰りの電車賃しかなかった。
(皆の給料も払わないと・・・・・)
と、仕方無しに、新聞紙を集めて公園のベンチで新聞に包まって朝を待ったこともあった。
新聞紙というのは、結構温かい。
しかし、心とお金はひもじかった。
明日からどうしよう・・と思いつつ、社員やアルバイトに笑顔で
「いつもありがとう、給料少なくてごめんね」
と渡すことが多かった。
今は、少しはましな給料を払えるようになっていた。
そんな折に風邪を引いた。
相変わらず、仕事のペースを緩めずに続けていた。
ある日、扇町公園を横切ろうとしていた。
扇町公園は、大阪駅のすぐ東にある200m四方もある大きな公園だ。
公園の東に関西テレビ、西に北野病院がある。
そこから商店街を一キロほど歩くと大阪駅にいける。
その日も太陽は容赦なく地面を焦がしていた。
私は、風邪が治らず、体が重かった。
公園を横切ろうとしたが、体が重く、20mほど歩いて歩けなくなってきた。
(なんか・・・おかしい・・)
自分の目を通して映し出される光景に黄色いフィルターがかかっていた。
(病院に行こう・・・)
すれ違う人数人に
「大丈夫ですか?」
と声をかけられたが、
「ええ、大丈夫です・・すいません」
と空元気で対応した。
そばに大きな北野病院が見える。
2,30分かけて、200m先にあった北野病院にたどりついた。
「先生、なんか調子悪くて・・・信じられへんかもしれないですけど、歩けないんです」
先生は私の顔を見るなり、目を検査して、
「信じるも何も・・・君、まっ黄っきじゃないか。血液検査して、今すぐ入院手続きしますから。」
「えっ・・・・に・・入院ですか?・・・・・」
結局、血液を取られて、すぐに、入院手続きをされて、
六人部屋の一番奥のベッドで点滴を打たれながら横たわった。
ネクタイを締めたまま横になり、
「会社に連絡しなくては・・・・」
と思った後、なにも出来ずに眠ってしまった。