ギャンブル小説「とったらんかい!」--スローモーション-- |         きんぱこ(^^)v  

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      砂坂を這う蟻  たそがれきんのすけ

--スローモーション--


翌朝早くに目が覚めた。


ネクタイを締めたまま、スーツのズボンをはいたままだったのを思い出した。


どこかから、ピッピッ・・・と機械音が聞こえている。


左手に点滴が付けられていて、規則正しくポツポツと液体が落ちていた。


体がひどく疲れて、ベッドに磁石がついているのではないかと思うほど張り付いていた。


昨日の扇町公園あたりから、急にスローモーションになっていた。


頭の中に、黄色いフィルターがかかった扇町公園の風景が浮かんでいた。


感度の悪いオートフォーカスのデジカメのディスプレイを見ているような光景だった。


全てがクロックダウンされたなかで、なぜか音はなく、すれ違う人が、皆私のほうを見てきた。


携帯を見てみると、ミーコから着歴とメールが届いていた。


携帯はマナーモードにしていた。


無意識にしたのだろうか。


「どうしたの?なにかあったの?」


ミーコは心配していた。


「今北野病院で点滴打って寝てる。内科病棟の503号室。今日は事務所よろしく、ごめんね。」


と返事を返しておいた。


昨日、扇町公園が砂漠に思えた。


どれくらい体調が悪いのだろう・・・。


朝起きてからも、動作が遅い。クロックダウンは続いている。


午前中に検査があり、全ての結果は翌日に解るらしい。


ミーコとアルバイトの藤田くんが来てくれた。


「・・・・・・・・」


ミーコは看護士の免許を持っている。


私を見ただけで、大方のことは理解したみたいだった。


検査の結果を見ずとも肝炎なのは明白だった。


藤田君が小声で


「大丈夫ですか?・・・それにしてもこの病院・・・・・何かの映画で見た戦後の負傷兵収容施設そっくりですね。」


三人でこっそり笑った。


現在の北野病院はホテルではないかと思うくらい立派な建物だが、当時は戦前に建てられた古い病院だった。


「しばらくかかりそうだけど、なんとか繋いでてよ、ごめんな」


「肝臓だけやったら、1、2週間くらいやね。」


「だんだんスローモーションになって、終いに時計が止まるんかと思ってたよ。」


「まだまだ。これくらいならましなほうやから、けど、じっとしとりや、パチ行ったらあかんで!」


ミーコは、さすが何人もの患者を診てきただけある。


私がまだ想定もしていなかった、未来まで釘を刺された。


私は、1日24時間が100時間になってしまっているクロックダウン状態のなかで、どう時間を使っていくかを考えなければならなかった。