転職、独立は80%の失敗を覚悟して始めたほうがいい | 伊藤修二 「黄昏シンドバッド」

伊藤修二 「黄昏シンドバッド」

 ・・・仙台市在住。東北大学経済学部卒業 放送作家(日本脚本家連盟会員)  詩集「ひとり荒野」 小説集「明日。」 「セクシードラゴンの夏」などを出版。アマゾンの「伊藤修二」から購入できます。寄せられたコメントは公開していません。フォロワーも求めていません。

 

 

わたしは40歳でテレビ局をやめて

個人事業主として放送作家の道へ進んだ。

束縛されるのが嫌だという理由でやめたのだから、

成功するとか収入アップなど考えたこともなかった。

「まあ、なんとかなるだろう」という不確実な気分だけであった。

 

以下は、今だから思うことである。

わたしの場合は、テレビ局をやめてからのほうが収入が膨らんだが、

それは、結果的にそうなっただけで、

風まかせに、オファーがあった仕事を淡々とこなしただけだった。

 

テレビ番組の放送台本だけでなく、CMコピーも随分と書いたし、

学校や企業の広報ビデオの台本も数えきれないほど書いた。

結局、

テレビ局のいいディレクターとプロデューサーに恵まれたことが幸いした。

 

今、政府も盛んに転職、独立を勧めるようになった。

その場合の動機付けにキャリアアップを挙げている。

転職、独立を考えている人たちも増えていると聞く。

しかし、キャリアアップって何だろうと思う。

今は、弁護士や公認会計士という高等なキャリアを積んだ人でも

なかなか食っていけない時代になりつつある。

 

公認会計士の学校を経営していた親しい友人がいたが、

彼も、公認会計士という資格に必ずしも夢や希望を託してはいなかった。

彼をかつての東証一部上場企業のオーナー経営者として成功に導いたのは

類まれなコミュニケーション能力である。

 

コミュニケーション能力という

とても曖昧模糊としたキャリアを身につけるには

最低10年の歳月がかかるだろう。

 

ビジネススクールでコミュニケーション学は学べても

それだけで、コミュニケーション能力を身につけることはできない。

コミュニケーションの土台となるのは豊富な人生経験だからである。

 

司法試験、公認会計士、英会話、ファイナンシャルプランナー

行政書士、簿記等々のキャリア組は人数が多すぎて、

優位性がすっかり薄れてしまっている。

だから、キャリアアップだけで

転職、独立を考えてはいけないと思う。

たいがいは失敗する。

 

今、通用するキャリアとしたらプログラミングとヒンドゥー語だろう。

特に、ヒンドゥー語。

まもなく世界のマーケットは中国からインドに移る。

来月から新社会人になる若者の君たちも、

数年後の転職をめざすならヒンドゥー語のキャリアは大きな武器になる。

 

それと、

確かなのは、「運」だけかもしれない。

人に誇れるキャリアがなくても、

運が道を拓いてくれる時がある。

 

東北で長期間、放送作家として生計を立てていたのは、

わたしを含めて二人しかいなかった。

一人は、わたしよりはるかに優秀な放送作家だったが、

わたしが仕事を始めてまもなく、別の職種に転じてしまった。

 

その理由はわからないが、

彼が主戦場としていたテレビ局のギャラが安すぎたからかもしれない。

一度だけ、そのテレビ局の仕事を請け負ったが、

あまりのギャラの低さに心臓が止まりそうだった。

事前にギャラ交渉しなかった自分が悪いと諦めたが、

以後、そのテレビ局からのオファーは丁重に断り続けた。

 

わたしは、「運」が良かった。

わたしが仕事をさせてもらっていたテレビ局はいつも

くだんのテレビ局の数倍のギャラを提示してくれた。

東北6県、およそ15社あまりのテレビ局すべてである。

 

週に、5本のレギュラー番組を抱え、

その合間にテレビCMのコピーを書いていたこともある。

キャリアではなく、

すべて、「運」に恵まれたおかげであった。

 

だから、

これから、転職、独立を考えている人たちは、

80%の失敗を覚悟して、

「運」に自分の未来を託すしかないと思う。

 

そのほうが、実は成功する。

失敗の予測から始めたほうがいい。

 

成功より失敗。

なんか勇気づけられる気分にはならないだろうか。

 

最後に一言。

「何もしないより何かをして破れたほうがいい」。