クロスカントリーにも対応しようと今朝は山道を走った。

家から10分程走るとそこに丘のような山がある。

墓とかあったりするので暗いうちはできることなら行きたくない場所だ。


日が昇ったのを確認し、体にぴったりフィットするウェアを着て

その上から長袖のジャージを着て出発した。

フィットウェアは速乾性、保温性に優れ冬の間はゴルフや野球にも重宝している。


計算どおり10分程で山への登り口について

前傾姿勢を保ちながら膝に負担を与えないよう心がけて登る。

道の両側からの木々から伸びた枝葉が僕の上空に圧迫感を与える。


いつもより早めに息切れして山道においての禁煙の必要性を改めて自覚し

いつのまにか体が順応し足が軽くなっていく瞬間をむかえてペースが上がっていく。


カラスが2匹、聖域を犯された侵入者を仲間たちに知らせるように泣き喚く。

いつのまにかもう1匹、もう1匹と増えていき、7匹くらいが僕のことを監視しながらついてくる。

時には僕を追い越し、時には僕が追い越す。

この山はきっとカラスの寝床なんだろうなと思いながら

下りはじめる山道を軽快に走り続けた。


ある地点にくると、そこで大学生だったころの僕が里帰りした際、

当時知り合った女の子とカーセックスしたことを思い出した。

どんなエッチをしたかはまったく思い出せないし

どんな女の子とエッチをしたのかもまったく思い出せなかった。

車がこの位置にあったことだけは不思議と鮮明に思い出した。


冷たい山の酸素が僕の体に違和感なく溶け込み始めるころ

山の中腹にある小さな公園からラジオ体操の音楽が聞こえてきた。

木々の間から老人たち10人くらいが体操をしているのが見え、

何人かはゴルフクラブを1本だけ握りしめて公園に向かって歩いていた。


アップダウンが激しくなり足をひねったりしないように道の中央を意識して走る。

いつのまにかカラスからの襲撃は解放されていた。


石が敷き詰められ道が広がった場所に出ると猫が僕の前を通り過ぎたり

横から母親猫と子猫が僕の通り過ぎるのを興味なさそうに見つめていた。

5,6匹でなにか企んでいる様子の猫たちも興味なさそうに僕が通りすぎるのを見つめる。

それらの猫は捨て猫で、捨て猫には捨て猫の社会があるように思えて微笑ましかった。


30分かけて僕は山を登って降りて平坦な道のりをいつものように家まで走った。


山は捨て猫とカラスと老人たちが生態系を保ちながら存在していた。

僕は山においては侵入者なのかよくわからないが

山にはたくさんの良質な酸素があったし気持ちよく走れたように思う。

少し汚い女とキスをした。

口紅の味が僕の胃液を逆流させたのだ。

嫌な気分だ。


彼女は鼻と頬の境目にクリトリスのような突起物があり

ショートカットの艶のない髪型が疲れた主婦感にあふれていた。

汚れたコンビニの制服が似合う女だ。


顎を上に向けて全体を見わたす顔は可愛い。

目が色素が弱いのか薄い栗色で弱々しく

鼻の突起物との妙なアクセントが魅力的に映り、

デートをした。


彼女はいつもうつむいて彼女より背の高い僕はいつも彼女を見下ろしながら話をした。

可愛さが半減して艶のない髪の毛にむかっていつも話をしていたので

セックスについてはやっても想像のつく範囲内に思えたので

性的な魅力が沸き起こらず僕を覆う透明な膜を突き破るために彼女を口説いたのだ。


地下2階の居酒屋さんを出るとそこはは綺麗にデコレイトされた和風庭園の敷石道だった。

お酒で気分を良くした彼女は僕の肩に寄りかかりながらキスをせかすようにゆっくり歩いた。


僕は当然のようにキスをした。

当然の流れはそこに存在し、当然のように拒絶は許されない。

食事が終わって彼女はトイレで化粧を直していた。

新しく塗りたくられた口紅の味に僕は吐き気を催した。


タイプの女の子の口紅の味はおいしいが

タイプでない女の子の口紅の味は気持ち悪い。

あくまで社交辞令的な場面でのキスだったが

僕は気持ち悪くて口紅の脂分を僕の唇の外側で滑らしながら

僕の内部には断固として受け入れない努力で精一杯だった。


長い拷問的なキスが終わると

彼女の目に涙があふれだしそうに溜まっていた。

弱々しい栗色の目からあふれ出すとこまるので

僕はもう一度短いキスをして出口の階段を地上へと急いだ。


地上に戻った僕たちは行き場を失い

タクシーを拾ってラブホに行って交わった。

彼女の愛液は無臭だった。


サルのような行為の終わった後、彼女は無口でなくなった。

僕はサルのような行為の後は出来ることなら空想にふけりたい。

でも彼女はまるで僕との主従関係が出来上がったかのように自信に満ちていた。

彼女は眼に見えない透明な膜から解放されたのだ。


僕に「もっとわたしのこと聞いてみて」とせかされ

彼女の小さいときの話を訊ねると

彼女は顎を上に向けて話し始めた。

彼女の言葉は僕の耳では消化できなくなっていった。


僕は眼に見えない透明な膜から解放されずに

空っぽになった精子袋を満タンにするまで

次の機会を待たなければいけなくなったことを考えながら

しわになったスーツを着て

「精算するよ」と言ってタッチパネルへ向かい

長かった彼女との1日から抜け出せる喜びに胸が騒いだ。





僕は車で橋の登りかけのところで信号待ちをしていた。

市内の汚い川の上を30メートル登って30メートル下っている、

その調度中間の登りきったところで待っていた。

向こう側から30代後半くらいの主婦だろうか、

自転車を必死で坂を登ってきた。


黒いニット地のセーターに紫色のコートを着て

顔色の悪さが際立たせ、その青白い顔色が端正な目鼻立ちをエロさを浮き彫りにする。

黒いスカートの下側の青白い膝を僕は不思議な運動をする動物を眺めるように見つめてしまう。


彼女は僕の視線が気になるのか必死さを必死に抑えて

秋のはじめの冷たい風で乱れた髪の毛を整えながら僕を意識する。

秋風は気まぐれだ。枯葉はカサカサ音を立てながら本体を少しずつすり減らしていく。


僕は彼女が不倫していることがわかった。

僕に視線を合わさないまま意識しているそのオーラが家族にはいえない

秘密のセックスにひたすら従事するひたむきな女の映像に変わる。


僕の右側を通り過ぎる彼女の裸がイメージとして僕の脳みそに送り込まれ

貧相な乳輪は写真移りの悪い黒人の乳首のような青っぽい灰褐色だ。

そんな乳首は頭の上が禿げ上がりかけた男が大切そうに口に含む。


その時、すえたような女性の性器から分泌される液体のニオイが車に充満した。

車は窓も締め切って、ビル・エバンスのピアノの音だけが僕を確認できる唯一の物のはずなのに。

習慣から僕は自分のちんこのほうをなんとなくニオイをかいでみる。

どこからそのニオイが充満したのか確認できなかった。


そのニオイはつまらない女がつまらない愛液をたらしながら

つまらないオーガズムにいたったセックスを思い起こさせる

とにかくつまらないニオイなのだ。


彼女の後姿をバックミラーで確かめる。

彼女はまだ僕に意識を残して自転車を漕いで下っている。

つまらないニオイは僕に変な優越感と罪悪感を与える。

彼女の後姿が小さくなっていき、信号が青に変わったので僕はアクセルを踏んだ。


つまらないニオイは吸えた糊のニオイだった。

僕は窓を開けて新鮮な空気を車に循環させて

ビルエバンスのCDを取り出して

充満していたつまらないピアノの音も秋の風で外へ車の外に追い出した。


カラスの鳴き声が遠くで平和に響いた。

車の中に平和な空気が入り込む。

しばらく窓を全開にして平和な音を車の中に充満させた。