僕は車で橋の登りかけのところで信号待ちをしていた。

市内の汚い川の上を30メートル登って30メートル下っている、

その調度中間の登りきったところで待っていた。

向こう側から30代後半くらいの主婦だろうか、

自転車を必死で坂を登ってきた。


黒いニット地のセーターに紫色のコートを着て

顔色の悪さが際立たせ、その青白い顔色が端正な目鼻立ちをエロさを浮き彫りにする。

黒いスカートの下側の青白い膝を僕は不思議な運動をする動物を眺めるように見つめてしまう。


彼女は僕の視線が気になるのか必死さを必死に抑えて

秋のはじめの冷たい風で乱れた髪の毛を整えながら僕を意識する。

秋風は気まぐれだ。枯葉はカサカサ音を立てながら本体を少しずつすり減らしていく。


僕は彼女が不倫していることがわかった。

僕に視線を合わさないまま意識しているそのオーラが家族にはいえない

秘密のセックスにひたすら従事するひたむきな女の映像に変わる。


僕の右側を通り過ぎる彼女の裸がイメージとして僕の脳みそに送り込まれ

貧相な乳輪は写真移りの悪い黒人の乳首のような青っぽい灰褐色だ。

そんな乳首は頭の上が禿げ上がりかけた男が大切そうに口に含む。


その時、すえたような女性の性器から分泌される液体のニオイが車に充満した。

車は窓も締め切って、ビル・エバンスのピアノの音だけが僕を確認できる唯一の物のはずなのに。

習慣から僕は自分のちんこのほうをなんとなくニオイをかいでみる。

どこからそのニオイが充満したのか確認できなかった。


そのニオイはつまらない女がつまらない愛液をたらしながら

つまらないオーガズムにいたったセックスを思い起こさせる

とにかくつまらないニオイなのだ。


彼女の後姿をバックミラーで確かめる。

彼女はまだ僕に意識を残して自転車を漕いで下っている。

つまらないニオイは僕に変な優越感と罪悪感を与える。

彼女の後姿が小さくなっていき、信号が青に変わったので僕はアクセルを踏んだ。


つまらないニオイは吸えた糊のニオイだった。

僕は窓を開けて新鮮な空気を車に循環させて

ビルエバンスのCDを取り出して

充満していたつまらないピアノの音も秋の風で外へ車の外に追い出した。


カラスの鳴き声が遠くで平和に響いた。

車の中に平和な空気が入り込む。

しばらく窓を全開にして平和な音を車の中に充満させた。