「リーゼント」を貫く40歳男性の知られざる日常生活。「ケンカを売られたことは一度もない」 | みんなの事は知らないが、俺はこう思う。

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SPA!  6/18(火) 8:53 Yahoo!ニュース 


多様性が叫ばれて久しい現代。だが、周りを見渡せば、何をするにも同調圧力がかかったり、企業の入社式では似たようなリクルートスーツを着た新入社員が並んでいたりするものだ。誰もが自分が好きなように生きられる世の中とは言い難いのが現状である。

息苦しささえ感じる日本の社会において、昭和ヤンキー文化の象徴とも言うべき髪型「リーゼント」に並々ならぬこだわりを持った人物が存在する。その名もリーゼント矢板氏。

素朴な疑問だが、“リーゼント生活”に不便はないのだろうか……。なぜ彼が数多ある髪型のなかから、一番気合の入ったものを選んだのか、その理由を聞いてみた。


日常をリーゼントで過ごすとどうなる?


矢板氏の日常生活は髪型同様、“普通”とは一味違うらしい。


「見知らぬ年配の男性からは『懐かしい髪型してるね!』、外国の方からは『エルビス・プレスリーが好きなの?』と、街中で声をかけられることは結構ありますね。それから、待ち合わせの時、見つけやすくて便利らしいです(笑)」


リーゼントといえば不良文化を象徴するような髪型。突然、ヤンキーに絡まれそうでもある。実際のところ、どうなのか。


「昔だったら『お前、生意気な髪型してんなぁ』と来られることがあったかもしれませんが……。そんな時代は過ぎたみたいで、ケンカを売られたことは一度もないですね」


矢板氏ほど立派なリーゼントをセットするには40分~1時間を要するという。しかし、時間がかかるのは“作る”ときだけではない。


「落とすのも大変です。1回のシャンプーでは済まず、2回や3回は洗うのは当たり前。でも、それだけやっても、まだ残っていることがあって。乾いた状態で頭を掻いたら、『スプレーが固まった粉』が落ちてくることもあります」


「ラーメン」と「夏」には要注意


何かと苦労が絶えないわけだが、普段の生活で気を付けているポイントもいささか突飛だ。


「たとえばラーメンを食べに行ったとき。丼ぶりを持ってスープをすするにも、角度に気をつけないといけません。でないと、リーゼントの先がスープに突き刺さってしまい、髪の毛がドロドロになっちゃうんです(笑)」


四季折々で困りごとがあるようで、特に、これからやってくる夏はリーゼントにとって受難の季節なのだという。


「小さい虫がリーゼントの中に混入するんです。自力では出てこれないみたいで、頭を洗っているとシャンプーの泡とともに流れてくることもあります。それから、僕のリーゼントは前髪がおでこにかかるようなセットなので、日焼け対策をやらないと、V字に日焼けしてしまい、かなり恥ずかしい感じになりますね(笑)」


ヤンキーに憧れていたわけではない


矢板氏がリーゼントに興味を持ったきっかけは『ジョジョの奇妙な冒険』『魁!!男塾』『ろくでなしBLUES』など、漫画のキャラクターに触発されてのことだったという。


「ヤンキーに憧れたわけではありません。あくまで守るもののために戦ったり、信念を貫くキャラクターたちへの憧れです。リーゼントは彼らの男らしさの象徴というイメージで、自分もそうなりたくてリーゼントを始めようと思いました」


まさに『ジョジョの奇妙な冒険』第4部の主人公・東方仗助のようなエピソードである。しかし、インターネットが普及していなかったこともあり、中学生だった矢板氏にリーゼントの作り方を調べる術はほとんど皆無だった。


「漫画を参考に作ることからはじめ、映画『ビー・バップ・ハイスクール』のパンフレットをブックオフで見つけて、その写真を見ながら試行錯誤。それまで整髪料もつけたことがなかったので、何を買っていいかわからなくて。いざ買ったものがいまいちでも、当時は中学生だったので、すぐには買い替えられず……。使い切るまではその整髪料で悪戦苦闘していました」


衝撃だった「氣志團のデビュー」


リーゼントにまつわる“革命”が起きたのが、矢板氏が高校2年生だった2001年。ある新聞記事を見て、全身に電流が走った。


「氣志團のデビューを伝える記事でした。『理想のリーゼントをやっている人たちがいる!』と衝撃を受け、彼らにのめり込んでいきました。そこでわかったのが、『僕の理想のリーゼントはパーマをあてないと無理』ということ。さっそく、パーマをかけてリーゼントを作ってみると、案の定理想の形にグッと近づきました。この出来事を経て、高校3年を『リーゼント元年』と自分のなかで制定したんです。ここから僕のリーゼント人生がスタートしたと思っています」


不良の髪型としてのイメージが強いリーゼント。学校や親から注意されることはなかったのだろうか。


「僕は不良ではなく、むしろ準特待生だったくらい授業も真面目に聞いていたので、学校では黙認されていました。リーゼントを始める前までは、寝癖がついたままのボサボサな頭で学校に行ってたんですよ。だから、リーゼントをはじめてから母親は『やっとヒロシ(矢板氏の本名)がクシを持つようになった』とむしろ歓迎していましたね(笑)」


2024年、ついにリーゼントを本業に


普段は、ビジネスホテルの清掃責任者、そして渋谷ハンズの木材工房でアルバイトして生計を立てているという矢板氏。もちろん、仕事中もリーゼント姿だという。


そんな同氏にとって、2024年は大きな転換の年になりそうだ。


「これまでも、『リーゼント矢板の人生』としての心の本業はリーゼント・学ラン業だと思ってきました。そしてこの度、2024年6月に個人事業主として開業届を提出して、晴れてリーゼント・学ランにまつわる仕事が本業と胸を張って言えるようになりました」


つまり社会的にも肩書きがリーゼント・学ラン業になるわけだが、それを背負って冠婚葬祭に出席する時はどうするのだろうか。結婚式など祝いの席はリーゼントでも良さそうだが……。


「お葬式もリーゼントで参列しますよ。故人との関係性によって小さめにはすると思いますが、リーゼントは僕にとって正装ですからね」


リーゼントは誤解されている?


リーゼントをデザインしたグッズなどを販売し啓蒙活動にも余念がない矢板氏だが、世間がリーゼントに対して抱く“誤解”を解きたいとも話す。


まず世間的には、前髪をこんもりと立てた髪型がリーゼントだというイメージがある。また、数年前「リーゼントは側頭部の撫で付けた部分で、前髪の盛り上がりはポンパドール」だという説がSNSを中心にバズり、考えを改めた人も多いだろう。


しかし、矢板氏曰く部分によって名称を分ける考え方も正しくないそうだ。


「そもそも、リーゼントもポンパドールも『ヘアースタイル』の名称なので、1つの髪型に、この部分はリーゼント、この部分はポンパドールと分けること自体が意味のないことです。リーゼントもポンパドールもパーツではなく、全体の髪型です。『もみあげ』や『襟足』というヘアースタイルがないように、パーツ名として呼ぶなら、リーゼントはヘアースタイルの名称としては存在しなくなります」


この思いを広く伝えるべく、自身で画像を作成し、正しいリーゼントの普及に励んでいる。


「もし、横の部分だけをリーゼントとするなら、『横を撫で付けて頭頂部がツルツルの髪型を見てリーゼントだと思いますか?』ということなんですよ。逆に、横を刈り上げて、頭頂部をポンパドールにした髪型を見たらリーゼントだと思いますよね。なので、トータルでリーゼントと呼ぶべきだと思っています」


いつかハリウッドでデビューしたい


リーゼント愛好家の母数を増やす活動も矢板氏のライフワークのひとつだ。


「手ごたえがあったのが、青山のギャラリーで行った『リーゼント体験企画イベント』。ここで、たくさんの方をリーゼントにさせてもらいました。でも、コロナ以降は近距離での接触が難しく、最近はご無沙汰で。また同様の企画をやりたいです。実は、その企画は女性の希望者が多かったんですよ。いつか、リーゼント姿の女性を集めた写真集を作れたらいいなと思っています」


今後の展望については、敬愛する人物からのアドバイスを受けて閃いたそうだ。


「去年の冬、氣志團の綾小路(翔)さんに会った時に『日本でそんな髪型しててもただの変人だから、ニューヨークかパリに行った方がいいぞ』って言われました。そこから、徐々に海外での活動もイメージするようにしています。どうせなら、日本人のツッパリ役として、ハリウッドデビューでしょうか? 世界中の荒くれ者たちが集まる、闇の地下格闘大会が存在する。そこに新たな参加者として現れた、1人の奇妙な髪型をした日本人……YAITA。勝ち進むに連れ、この大会の恐るべき真の目的を知ってしまう!昨日の敵は今日の友!拳を交えた世界中のファイターと手を組み、“ツッパリ魂”を燃やして、人知れず世界を救う事が出来るのか!?――みたいな映画とかですかね(笑)」


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日々の苦労を厭わずに、リーゼントを愛し続ける矢板氏。彼の地道な努力によって、イメージ自体が変わっていくかもしれないし、若者の間で流行でもしたら面白い。かく言う筆者も挑戦したいところではあるが、寄る年波には勝てず、毛量が心もとなく……。何であろうと、後悔する前に試すべき、そう学んだ取材でもあった。


<取材・文/ Mr.tsubaking>


【Mr.tsubaking】

Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。


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