超高層タワマンを買ったら「多額債務者」に | みんなの事は知らないが、俺はこう思う。

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崩壊するマンション市況の「ヤバすぎる現実」

山下 和之( 住宅ジャーナリスト) 6/14(金) 05:00

超高層マンションは資産価値が高いので多少無理してでも買ったほうが得策――。そう考える人が多いが、それはまだ超高層マンションの希少性が高かった、一昔、二昔前の話。今や大都市部では、さまざまな場所で見られるようになって、超高層だからという理由だけで資産価値が上がる時代ではなくなっている。選択を失敗すると超高層マンションといえども価値が下がって、売るに売れずに、たいへんな事態に陥りかねないので注意が必要だ。

初月契約率が3割を切る月もある

不動産に関する民間調査機関の不動産経済研究所では、毎月首都圏、近畿圏の新築マンションの発売戸数や契約率などを調査して公表している。

そのうち、契約率というのは初月契約率のことで、発売された月のうちに、発売戸数の何%が売れたかを示している。新築マンションは、着工後に販売が始まるので、初月に70%以上の契約が成立すれば、竣工までの間に完売できる可能性が高いため、70%が採算ラインといわれている。

このところは首都圏の新築マンションの売れ行きが好調で、価格も上がり続けていることもあって、契約率は採算ラインの70%前後からそれ以上を記録することが多い。首都圏全体の平均であるブルーの折れ線グラフは、おおむね70%前後で推移していて、月によっては80%近い契約率となっている。

しかし、細かく見ると違うこともわかってくる。超高層マンションを示すグラフは上下動が激しく、月によっては、30%を切っていることだ。

超高層というだけでは売れない

これが何を意味するか。超高層だからという理由だけで売れる時代ではなくなっており、普通の中高層マンションより売れない物件も少なくないということだ。

こんなことは、まだまだ超高層マンションが珍しい時代には考えられなかった。

一見して分かるように、2022年から2024年の2年間に比べると超高層マンションの契約率は極めて安定していて、超高層マンションの契約率が、マンション全体の契約率を上回る月が多い。月によっては超高層マンションの契約率が90%を超えたこともあり、まさに、売り出せばすぐに売れる状態で、人気物件は即日完売というケースも珍しくなかった。

それに比べると2022年4月からの2年間は、バラツキが大きく、超高層というだけで売れる時代ではなくなっていることが分かる。

重すぎるローン

それだけに、「超高層だから安心」と十分に内容を検討せずに買ってしまうと、大変な後悔をすることになりかねない。

場所にもよるが、超高層マンションは周辺の相場に比べると2割から3割割高だ。とりわけ高層階になると5割以上高いケースも珍しくない。それでも売れるのは多少高くても、買っておけばいずれ高くなって、十分に元がとれると考える人が多いからではないだろうか。

一般的な中高層マンションだと5000万円の借入額になることが多いのではないだろうか。この場合、金利1.0%、35年元利均等・ボーナス返済なしの毎月返済額は約14万円で済む。ところが超高層マンションの高層階を倍額の1億円の借入額で買ってしまうと、返済額は28万円以上になってしまう。

住宅ローンの安全性を考えて、市中の金利が上がっても適用金利が変わらず、返済額も増えない固定金利型だと金利水準が高いので、もっと負担が重くなってしまう。

首都圏の中古マンション価格は下がり始めている

それでも、超高層マンションなら、5年後、10年後には価格が新築時より2割、3割と上がっていたから、万が一返済が苦しくなっても、売却すればお釣りがくるので問題はないと、購入する人が多い。

しかし、今はもうそれは過去の話だ。超高層マンションといえども、選択を誤ると、価格が下落して、資産価値が下がるリスクが高まっている。実際、首都圏では東京23区を除いて中古マンション価格が下がり始めていて、割高で掴んでしまうことが多い超高層マンションも決して例外ではなくなりつつある。

東京カンテイの調査によると、2024年4月の首都圏中古マンション価格は東京都と神奈川県が前年同月比1.6%の下落で、埼玉県は4.5%、千葉県は3.0%下がっている。そのなかには、超高層マンションも含まれている。中古マンション価格が頭打ちになっていることは、超高層マンションの本格的な下落が始まる前兆なのかもしれない。

仮に値下がりが現実になれば、元の価格が高い分、値下がりによる損害も大きくなる。たとえば、年率1%の下落だと、新築時に1億円だったマンションは、5年後には9510万円に、10年後には9044万円に下がってしまう。

変動金利型ローンなどを金利0.5%の設定で借りている場合、1億円のマンションを全額のローンを組んだとすれば、5年後には8676万円に、10年後には7319万円に減少する。

一方で価格の下落率が年率1.0%であれば、5年後の売却可能額は9510万円なので、ローン残高8676万円を一括返済しても手元に800万円以上残る計算になる。しかし、年率2.0%の下落だと、5年後の売却可能額は9039万円なので、手元に残る金額は400万円以下に減少する。さらに年率3.0%下がれば、5年後には8587万円でしか売れないので、ローン残高8676万円より少なくなる。つまり、ローン残高が売却可能価格を上回る「担保割れ」の状態になるわけだ。こうなると抵当権を設定している銀行では、その差額分を自己資金などで穴埋めしない限り、売却を認めてくれなくなる。

この程度の差額なら何とかなるという人が多いだろうが、下落率が大きくなって、一方で金利が先の想定よりも高くなると、担保割れ部分が大きくなってしまう。担保割れ分を用意できなければ、当然売却も出来ない。身動きがとれない状態になりかねないわけだ。

資金計画は慎重に

それでも、住宅ローンの返済がつつがなく続いていればいい方だ。病気やケガ、会社のリストラ、倒産などに遇うと、高額物件で毎月の返済額も高額だけに、大変なことになりかねない。

特にリスクが大きいのが、共働き世帯だ。片働きであれば、共働きして何とかやり繰りできるかもしれないが、図表3で示したように、超高層マンションを買って、高額のローンを組んでいれば、パート勤務などではとても追いつかない可能性が高いのではないだろうか。

そうなると、ローンの延滞が発生して、いよいよ二進も三進もいかなくなる。延滞が発生すると、優遇金利の適用がなくなり、返済負担が一段と重くなるので、いよいよ返済が難しくなる。延滞が数ヵ月続いてしまうと、競売に付される危険性もある。そうなると相場より格段に安く落札されて、多額のローン債務が残り、マイホームを失った上でローンの返済だけが続くという悲惨な状態に陥ってしまうのだ。

そうならないためには、まずは超高層マンションだからOKという安易な発想ではなく、十分なメリットがあり、資産価値の維持・向上が期待できる物件を選択することが何より重要なのは言うまでもない。それと同時に、資金計画も決して無理をしないことが大切になる。万一のことがあっても、ローン返済を続けながら、半年や1年程度は生活できる資金を残しておくことだ。

また、最近は全額借り入れで購入する人も多いが、2割程度の自己資金を用意しておきたい。そうしておけば、多少価格が低下しても、簡単には担保割れにならないようにできる。マイホーム購入は人生の一大事。ここで失敗すると、人生そのものが失敗に終わることにもなりかねないだけに、とにかく慎重な計画づくりが欠かせない。くれぐれも「超高層マンション」というフレーズに惑わされないようにしていただきたいところだ。