60歳で難病「岸博幸さん」残りの人生の“優先順位” 病になって気づいたこと | みんなの事は知らないが、俺はこう思う。

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6/4(火) 7:32 Yahoo!ニュース 

東洋経済ONLINE


60歳で多発性骨髄腫という難病が発覚した元官僚・慶応義塾大学大学院教授の岸博幸さん。主治医から10~15年という“余命宣言”を受けたことで自らの人生を振り返り、やめたこと・始めたことを自著『余命十年』にまとめた。自身の闘病経験を踏まえて、若い人たちに伝えておきたい“遺言”とは――。インタビューを2回にわたってお届けする(前後編の前編)。


■60歳になるまで病院とは無縁だった


 ――2023年1月にがんを告知されました。


 その前に、何でこの本を出したか少し説明させてください。


 実は、個人的には(本を)出したくなかったんですよ。病気をウリにする気はないし、同情してって思っているわけでもないから。でも、病気になって貴重な経験をしたので、それを残しておくのは何らかの意味があるかな、と思ったんですね。


 それで、告知の話だけれど、やっぱりショックでしたよ。


 僕は一昨年に60歳になったけれど、同世代に比べて体力は多分、抜群に高いほうだと思う。若い頃はロッククライミングでハードなトレーニングをしていたし、50代になってからはキックボクシングもしていた。


 病院にもまったく無縁で、どっちかというと健康保険料をムダに払い続けた人間だった。


【写真】病気との向き合い方や、日本の医療制度、今後の生き方について語る岸博幸さん(8枚)

 けれども、それが突然こうなっちゃった。主治医から「あと10年、15年だよ」って命の期限を設定されたときは、さすがに驚いたし、ショックでした。


 ――それと同時に、“腑に落ちた”ことがあったんですよね。


 そう。心当たりがあったから。


 まず、あの時期ってやたら疲れやすかったんですよ。僕が出ている「ミヤネ屋」の話でいうと、あの番組って基本的に台本がなくて、どこで振られるかわからない。


 集中力と瞬発力が勝負で、2時間も続くと結構、疲れるんです。以前はそれでも元気だったのが、1年ほど前から帰りの飛行機で寝るようになったんです。やっぱり年なのかなって。


 あと、まわりから「顔色が悪い」とも言われていましたね。これも年だから……と思っていたけれど、やっぱり気になる。それでたまたま人間ドックを受けたら、病気がわかった。そういう意味では、年齢のせいじゃなかった、原因があったんだ、とは思いましたね。


■吐き気と口内炎で食べられない状態が続く


 ――2月に1回目、7月に2回目の治療を行っています。どんな治療だったのでしょう。そのときの経験を踏まえて、読者にお伝えしたいことはありますか? 


 僕が受けた治療は、自分の血液から血液を作る素となる造血幹細胞を採取して、それを保存して、抗がん剤で全身のがん細胞を極限まで減らしたあとに体内に戻すという「造血幹細胞移植」というもの。


 抗がん剤は副作用がきつかったですね。まず吐き気がひどい。加えて、口内炎。この吐き気と口内炎でものが食べられない状態が続きました。


 ただ、人によってはこの状態が2~3週間続くけれど、僕の場合、5日間で終わったんです。ちなみに、入院期間も普通だと6週間以上かかるのに、僕は4週間ですんだ。


 これについては、主治医に「なんで僕はこんなに早いのか」って聞いたんです。そうしたら、「人によって副作用の出方が違うけど、岸さんの場合は基礎体力があったからでしょうね」って言われました。


 さっきも話したけれど、僕は体力には自信があった。それが病気になったときの治療にも役立ったんだと思います。


 今の時代、2人に1人はがんになるし、高齢化でいろんな重い病気にかかるリスクも増えている。そうなった場合の回復の速さを考えると、基礎体力は非常に重要。中高年の人は特に体力が大事だとつくづく思いました。


 ――副作用といえば、髪の毛も抜けたんですよね。


 そう。あれは正直言って、気分いいものではなかったです。抜けるのがわかっていたので、事前に髪の毛を三分刈りにしましたが、抗がん剤を初めて数日すると、抜け始めた。


 わかりやすく言うと、シャワーを浴びるたびに手にべったり髪の毛がつくわけですよ。朝起きると枕やベッドに髪の毛がいっぱい散っている。あれは非常に不快でしたね。


■恩人たかじんさんの写真がお守りに


 ただ、逆に言えば、こういう経験をする機会ってあんまりないじゃないですか。だから気分を切り替えて、「これはこれで楽しんでおこう」みたいなことは考えました。


 これは本にも書いたけれど、恩人であるやしきたかじんさんも、抗がん剤でハゲになったんです。それで僕が入院しているとき、たかじんさんの奥さんが(脱毛したときの)写真をいろいろ送ってきてくれて、「彼も大変だった」って連絡をくれたんです。


 それを読んで、自分もがんばろうという気になりました。写真は今もスマホの待ち受け画面になっています。お守りです。


 ――無菌室フロアでの入院中はとても大変だったと思いますが、メンタル面はどうやって保っていたのでしょう。


 吐き気や口内炎で具合が悪いし、髪の毛が抜けて不愉快だし、入院中は面白いことはなかったですよ。でも元来、暗い人間ではないので、うだうだしながらちょっとした楽しみを見つけて、という感じで過ごしていました。


 無菌室フロアにいて思ったのは、長期入院されている方が多いからか、どうしても皆さんの表情が暗い、ということ。特に中高年の男性ですね。


 女性の患者さんには比較的明るい方が多くて、だんだん仲良くなって、お互いに励まし合ったりしていたんですけど。ここでも男性と女性の違いが明確にわかって、興味深かったです。日本の中高年男性ってまじめってことなんだけれども、面白みがないですね。


 ――入院中、岸さんは余命10年を“ハッピー”と“エンジョイ”で生きようと決めました。


 入院中にまずやったのは、反省です。


 元々、僕は自分勝手な人間で、45歳で結婚するまで好き勝手やっていたんですよ。仕事も自分がやりたいこと、仕事以外でも自分が好きなことを優先していた。好きなヘビメタバンドのコンサートとか、ひいきにしているNBAのチームの試合とかがあれば、仕事そっちのけでニューヨークに行っていたし。


 ただ、結婚して、子どもができると、そうはいかなくなるもの。子どもの世話はしないといけないし、お金を稼がないといけない。気が付くと、自分のことより家族や仕事を優先するようになっていた。


 もちろん、それは大事だし、勉強になることも多かったけれど、人生楽しかったかって考えると、「楽しくないよね」と。


 残り10年しかないんだから、自分よりまわりを優先させるのはやめよう、もっと好き勝手やって、自分が楽しく過ごせるようにしようって思ったわけ。


 そんなことを考える時間ができたという点では、病気になってよかったと思う。これは強がりでもなんでもなくて、本心です。


■仕事とプライベートで優先したこと


 ――実際に、ハッピーとエンジョイの生活を始めていかがですか? 


 仕事に関していえば、政策を作る仕事とか、地方を活性化させる仕事とか、そういう自分がやりたいと思う仕事を優先するようになった。そういう仕事って収入につながらないんだけれど、やっぱり楽しい。


 プライベートに関しては、さっそく3月にヘビメタバンドのコンサートを観るために、ニューヨークに2泊4日で行ってきました。秋にもヨーロッパに行く予定。本当は今この瞬間もアメリカに行きたい。NBAのプレイオフの真っ最中だから(笑)。


 ただね、残念ながらこの病気になって、1年。最近は体の傾向がわかってきて、やっぱり忙しいのが続いて疲れると、てきめんに体調が悪くなるんですよ。だから無理をしないレベルで、とにかく好きなことをやるようになりましたね。


 これは笑い話だけれど、疲れて体調悪くなったときにタバコを吸うと心臓が苦しいんですよ。だからタバコは体調のバロメーターなんです。


 ――心臓が苦しくなる? え、それでも吸い続けたんですか! 


 しょうがないから(笑)。もう習慣ですよ。


 ――タバコといえば、岸さんは病気がわかってからもカフェイン、アルコール、ニコチンをやめないと決めたとか。


 そう。人生の残り時間が限られた今、楽しむしかないわけで、自分が好きなもの、食べものでも、嗜好品でも、やめる必要がないって思ったんですよ。


 残り10年……あ、もう9年か、そうしたら飯を食うのだって1日3回×365日×9年しかない。そう考えた場合に、僕はもともとニコチンとカフェインとアルコールで生きてきた人間で、当然それらが好きでもありますから、やめないです。


■嗜好品も上限を決めて、楽しむ


 一応、主治医の名誉のためにお伝えしておくと、主治医に言われているのは、栄養と水分を摂ることと、睡眠を取ることの3つで、そのほかは制限なし。もちろんタバコはダメって言われていますけれど。


 それに、今は上限を超えたら体調が悪くなるのがわかっているので、タバコは病気する前は1日1箱以上吸っていたけど、今は多くて1日7本ぐらい。アルコールもゆっくり飲みながら、ワインならグラス4杯ぐらいです。やっぱり体調は悪くしたくないからね。


後編は6月5日(水)に配信予定です


鈴木 理香子 :フリーライター