《きょう引退会見》宇野昌磨(26)が成し遂げた「羽生結弦にもできなかったこと」 | みんなの事は知らないが、俺はこう思う。

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小野 歩(文春オンライン)

 5月9日、フィギュアスケートの宇野昌磨(26)が現役からの引退を発表した。

 2018年の平昌オリンピックで銀メダル、2022年の北京オリンピックで銅メダル、そして団体戦でもおそらく銀メダル(優勝したロシアの処分が変わる可能性がゼロではないので「おそらく」)。オリンピックで3つのメダルは、実は羽生結弦や浅田真央も達成していない、フィギュアスケート男女を通じて日本最多の記録だ。

 羽生結弦が引退する直前の2022年から世界選手権を2連覇するなどまさに世界のトップスケーターに登り詰め、フィギュア界は宇野を中心にまわっていた。

 しかし今年3月の世界選手権では4位に終わり、鍵山優真(21)が2位だったことで日本人最上位も逃す結果に。この大会を終えたあとで周囲には「今後のことについては考える」と引退の可能性も匂わせていたという。

「ここ数年の表現力は世界で一番レベルが高い」

 フィギュアスケートを取材する記者は「引退するかもしれないというのは、ある程度みんな感じていたと思う」と言う。しかし、本人からの引退発表を聞いた心境はこう表現した。

 予感があったとはいっても、いざ現実となるとずしーんと来ました。それだけ大きな存在でした。羽生さんが引退した後は、実力はもちろん人気という点でも他の選手とは一つ違うレベルにいた選手でしたからね。今年の世界選手権は4位でしたが表現面では年々磨きがかかっていて、『ここ数年の表現力は世界で一番レベルが高い』と評価する指導者もいたくらいです。本人も手ごたえは感じていたはずなので、本当に引退するのかと衝撃を受けました」

 近年のフィギュアスケートはジャンプ、とりわけ4回転ジャンプの成否が勝負を分ける。宇野自身も世界で初めて4回転フリップを成功させるなどジャンプには力を入れてきたが、本人の関心が強かったのは得点につながりにくい“芸術性”だった。

 宇野の独特のスケーティングは世界のトップスケーターでもリスペクトする選手が多く、鍵山も「憧れの選手は宇野」と発言していた。

 また本田真凜との交際をオープンにする姿勢も好感を持たれ、フィギュアスケートファンを超えた認知も獲得してきた。大のゲーマーであることを公言し、男性ファンも多い。

羽生が宇野の引退に見せた“高橋大輔のとき”とは違う対応

 そんな宇野にとって最大のライバルは、常に羽生だった。平昌オリンピックで敗れるなど直接対決は大きく負け越しているが、世界選手権の優勝回数は同じ2回。そのことから、互いのファン同士がいがみあう場面もSNSでは少なくなかった。

 しかし宇野本人は「羽生選手をずっと追いかけてきた」と話していた。インタビューなどでは「羽生選手には勝ちたいと思っています」とターゲットにする発言をすることもあったが、前出の記者は「宇野さんは羽生さんを対等だとは思っていなかったのでは」と言う。

 「宇野さんにとって羽生さんは、ライバルというよりもあくまでも追いかける目標だったと思います。2人のスケート界での実績を見れば十分ライバル関係と言え、競い合う位置にあったと言えます。しかし当の宇野選手から、強烈な対抗心を感じたことはないんです」

 羽生も宇野の引退に対して、「『ゆづくん』として『昌磨』と世界で競技してこれたことが、本当に幸運なことで、楽しかったです」と親しみを表明するコメントをだしている。これは、羽生にとって“初代ライバル”だった高橋大輔が引退した時とは全く異なる対応だ。

「宇野さんが羽生さんとメダルを争う相手に成長してくる中で、意識しなかったということはないでしょう。ただ、ギスギスした関係ではなかったと思います。お互いのファンの一部が対立しているというか、ひいきが過ぎて相手側を非難しているのは私も何度も目にしました。でも本人たちはずっと会見場などで顔を合わせれば談笑していましたよ」

全日本選手権の13年連続出場は羽生にもできなかったこと

 宇野にとっては、ずっと追いかけてきた相手が引退してから2年での引退ということになる。その時期に世界選手権を連覇し、世界一のスケーターの地位を手にした。1つだけ残念なのは、宇野の選手としてのピークが羽生のピークとずれていたことだ。もし今の宇野が、羽生と同じ試合に出ていたら……。そんな想像に前出の記者は笑った。

「想像したくなる気持ちは分かりますよ(笑)。それでも、宇野選手は今26歳。フィギュアスケートが競技寿命の短いスポーツであることを考えれば、本当に立派な歩みだったと思いますよ」

 そして、こう付け加えた。

「宇野さんは全日本選手権に13年連続で出場しています。これは羽生さんにもできなかったこと。怪我で欠場することもなく、ずっと安定して成績を残し続けたのは宇野選手ならではの大きな功績でしょう。もちろん怪我を抱えることはありましたが、それでも怪我を言い訳にせずに大会に出続けました。欠場する選手がいても、宇野さんが出ることが全日本選手権という舞台の価値を守り抜いたとも言えます」

 宇野は14日に引退会見を控えているが、今後についてはまだ明らかにされていない。しかしアイスショーへの出演も予定しているようで、彼のスケートが見られなくなるわけではなさそうだ。

 ジャンプの比重が高くならざるを得ない競技の世界から、思う存分芸術性と向き合えるプロの世界で、彼にしかできないどんな演技を見せてくれるのだろうか。

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羽生結弦氏、 高橋大輔氏、宇野昌磨氏、誰をとっても個性的で独特の滑りが素晴らしかった。宇野氏も点数で評価されるオリンピックの舞台と同様芸術性の高いプロの世界でも世界に伍して行けるだろう。