R・シュトラウス オペラ「ばらの騎士」組曲 | 翡翠の千夜千曲

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音楽を学びたい若者で困難や悩みを抱えている人、情報を求めている人のための資料集

Strauss: Rosenkavalier-Suite ∙ hr-Sinfonieorchester ∙ Andrés Orozco-Estrada

hr-Sinfonieorchester – Frankfurt Radio Symphony ∙ 

Andrés Orozco-Estrada, 

Dirigent ∙ hr-Sinfoniekonzert ∙ 

Alte Oper Frankfurt, 17. Januar 2020 ∙

 

 

 

 昨日、買い物の帰り道TBSラジオのジェーン・スウの「生活は踊る」でへんてこな話を聞いた。メールやラインの話だろうが、句読点の多い文章は、オジサン的文章構造だというのです。若い彼らは、文末に 。 を付けないらしい。さらに、話は進む。文章の終わりに( ´∀` )とか(笑)が付く時に、一マス空いていたら、気持ちが悪いと言います。恐らく、その一瞬のためらいみたいなものに乾いた笑いや、無理している感じや、時には悪意を感じることもあるらしい。バカバカしいとは思いますが、私も若い頃は確かに意識過剰なところもあったし、勝手に傷ついたり、ありもしない妄想を感じたことも無いとは言いません。

 とは言え、携帯小節と言われるものでさえ、句読点が無かったら意味の通じないことは幾らでも出てきます。とん知ではないが読み手は、「ここでは着物を脱ぐ」のか、「ここで履物を脱ぐ」のかが判りません。若者文化は、ファッションばかりではなく、言葉にもあって、今頃「チョベリバッ」なんて言ったものなら化石扱いされます。

 オペラにも流行と言うものはあります。この当時は、ワーグナーの楽劇の熱はまだ冷め切ってはいませんでした。今日聴くのは、組曲の方ですが、オペラ「薔薇の騎士」で、この作品が上演されたのは、1911年1月26日の今日ですからワグナーの亡くなった時から28年後と言うことになります。脚本を担当したホーフマンスタールが揶揄したように、ワーグナーの声楽パートは「吼える二匹のケモノのような」ものだったかもしれませんが、これをシュトラウスはモーツアルトのようにリリックな歌唱スタイルにしたと言っています。最も、モーツアルトは「歌唱は楽器を演奏するように、楽器は歌を歌うように」と言っていましたから、どうなのでしょうか?同年輩にそんな話したら、「リボンの騎士」なら知ってるけど・・・と言われた。

 全曲で約3時間20分もかかるこの作品は、初演された時「時代遅れ」だとか「大衆に迎合的」などと叩かれましたが、現在では上演回数も多く好意的に迎えられています。 

 

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「ばらの騎士」のあらすじ
 舞台はウィーン、陸軍元帥夫人マリー・テレーズは、愛人の青年貴族オクタヴィアンと情事を重ねています。元帥夫人のもとを従兄のオックス男爵が訪ね、新興貴族ファニナルの娘ゾフィーと婚約するというのです。それでは婚約者に銀のばらを贈る「ばらの騎士」を誰にすればよいかを相談すると、元帥夫人はオクタヴィアンが良いでしょうと勧めます。
 しかし、ふたを開けてみればオクタヴィアンはゾフィーと出会って一目で恋に落ちてしまいます。ゾフィーへの無作法なオックス男爵のふるまいに怒ったオクタヴィアンは、オックスと決闘騒ぎを起こしてしまいあす。かすり傷を受けただけでオックスは大げさに騒ぎ立てるのですが、小間使いから逢引の誘いの手紙を受け取るや手のひらを返したように機嫌を直す。
 小間使いの正体は女装したオクタヴィアンですが、小間使いを口説くオックスは計略にひっかかり醜態をさらし、ゾフィーとの婚約は破談になってしまいます。元帥夫人はオクタヴィアンとゾフィーの若いふ二人を祝福し、静かに身を引くのでした。

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 さて、一般的な観客の立場からの紹介はあちこちで見かけますが、元東京交響楽団のホルン奏者で現在パーソナル・マネージャーを務める大和田浩明氏の以前の記事に演奏者の視点からの発言が面白いので紹介しましょう。こういう話は、なかなか聞けません。

 名ホルン奏者を父に持つリヒャルト・シュトラウスの作品は、それまでの作曲家とは別次元の音をホルンに要求します。たとえば、シュトラウスの音楽にはスラーのついた3連符が次々に登場しますが、こういう細かい動きの場合、単に左手のレバーを動かすだけでは音がはっきりと聞こえないため、1音1音に息をしっかり入れなければなりません。音域に関しても、僕がホルンの最低音に出会った作品はオペラ「ばらの騎士」で(残念ながら今回の組曲には出てこない曲です)、さらに彼の「家庭交響曲」には通常の最高音より上の音が出てきます。父の演奏に身近に接して「吹ける」と思ったからそう書いたのでしょうか。楽譜を見ると、父の偉大さも感じます。
 この組曲はオペラから抜粋した作品で、「ばらの騎士」とは婚約の印として銀のばらを渡す使者のこと。ウィーンを舞台に、元帥夫人の若い恋人オクタヴィアン(女性が演じます)が若い娘ゾフィーと本当の恋に落ちる、という物語です。
 組曲の最初はオペラと同様、元帥夫人とオクタヴィアンが愛し合う音楽で、ホルン全員が同じ旋律を一緒に吹いて始まります。勇壮ですが、実はその最初の実音シはホルンにとって鳴りにくい音。上吹き(1番・3番奏者)はそのあとに音を伸ばすので、下吹き(2番・4番奏者)がしっかり吹かねばといつも意識しています。こうして協力した結果、セクション全体として上手く鳴ったときはとても嬉しいです。
 愛の場面は続き、2人の感情の高まりをあらわす音型が3回登場しますが、この頂点の音はホルンの最高音の半音下で、上吹きの決めどころです。下吹きとしては、この音型に入る前の低音の半音階が演奏しがいがあります。低弦と一緒に音楽を積み上げていく感覚は、下吹きならではの醍醐味です。
 “ばらの騎士”であるオクタヴィアンがゾフィーと出会う場面では、ホルンの甘い響きも聞こえます。2人の恋のときめきが甘く歌われるなかで、ホルンも歌い上げるのです。1番奏者に3番奏者も続くところが実に美しいですね。3番奏者は休符のあとに高音が待ち構えているので大変ですが、うっとりするほど甘美な音楽です。
 元帥夫人、オクタヴィアン、ゾフィーによる有名な三重唱は、組曲ではワルツのあとに登場します。ここもホルンの聴かせどころで、オブリガートでホルン1人が動くところや、4番奏者が低音を動く箇所もあり、オーケストレーションが実に上手いと思いますし、その音楽に「ホルンで良かった!」としみじみ感じます。
 僕がドイツで学んだとき、「シュトラウス節」といえるリズムの吹き方を教わりました。おもしろいことに違う楽器の人も全く同じことを学んでいて、東響に来る外国人指揮者も同じ吹き方を要求する人がいます。シュトラウスは指揮者として活躍し、また戦後まで生きた人ですから、彼が求めた表現が現在もドイツで受け継がれているのでしょうね。今回の指揮者ヴィオッティさんは ウィーンで学んだそうですが、どんなシュトラウスになるか楽しみです。(友の会会報誌「スパイラル」Vol.49より転載/取材:榊原律子)

 この美しい作品を聴いて、本編を全部聞いてみようと言う方はチャレンジなさってみてください。ついでに思い出しましたが、タイトルの「ばらの騎士」ですが、ここではウィーンの貴族が婚約の申込みの儀式に際して立てる使者のことです。婚約の印として銀のばらの花を届けることから、このように呼ばれるのです。物語当時の貴族の間で行われている慣習という設定ですが、実際にはホーフマンスタールの創作です。本人は「このオペラでは一見本物に見えるものが実は虚構なのです」と言っています。

 リンクは、2022年の4月に上演された新国立劇場での「ばらの騎士」の様子です。さらに、ついで。今日紹介する作品だけでなく、クライバーの指揮する「こうもり」や「魔弾の射手」、ベートーヴェンの7番など名演です。

 

※ 演奏会のご案内⑫

 

 

 おそらく、仮の画像と思われます。

R.シュトラウス/歌劇「ばらの騎士」(ヴォーカルスコア)《輸入ヴォーカルスコア》

Der Rosenkavalier, Op. 60(Vocal Score)

ばらの騎士*歌劇 [DVD]

クライバー(カルロス) (出演, 指揮)  形式: DVD