フルートの出番です280 ヒース 「アヴァロンへの帰還」 | 翡翠の千夜千曲

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音楽を学びたい若者で困難や悩みを抱えている人、情報を求めている人のための資料集

William Bennett & Samuel Coles flute, David Heath's "Return to Avalon"

William Bennett and Samuel Cole (flute duet), Helen Crayford on the piano, at the British flute society convention in Manchester August 19th 2012 David Heath's "Return to Avalon" comissioned by Samuel Coles

 

 

 

 今日は、これから秩父を訪ね友人とミューズパークのイチョウ並木を歩き蕎麦を食べに行きます。このところ演奏会が続き、また知り合いの演奏会にも足を運び、アンサンブルの練習を見たりバタバタしていますが、こうして色々な世代の人と関われることは存外幸せなことです。少し前に、自分の家の前にある公園に子供が遊びに来て騒がしいから公園を閉鎖しろとか、小学生の登校班が家の前でうるさいから別の場所にしろとか言う老人がいるらしいと聞くと、本当に不幸な人だと思います。孤立無縁の静けさを得たとして、彼は静寂から何を得るのでしょうか。

 今日はヒースの音楽を聴きたいと思います。アヴァロンとはイギリスに伝わる伝説の島のことですが、ヒースはこれをペンタトニックで表現しています。彼は、1956年マンチェスター生まれです。ギルドホール音楽演劇学校でフルートを学び、17歳でモダンジャズを演奏し始め、彼の最初の作品である「Out of the Cool」は、フルート奏者仲間のリチャード・ブレイクから、まるでジャズを演奏しているかのようなサウンドとフィーリングの作品を求めて書かれました。それ以来、ヴァイオリンやサクソフォーン、フルートのためのバージョンで世界中で演奏されてきました。「アウト・オブ・ザ・クール」やその後の「ルマニ」や「コルトレーン」などの作品は、モダン・ジャズのコードとリズムをベースとし、完全に記譜され、クラシックな下地を持った音楽で作られています。
 1982年にピアノのための「Fight the Lion」を完成させて間もなく、ヒースの作品は方向転換します。次のフルオーケストラのための「Rise from the Dark」は、ロックをベースとしたリズムと極端なハーモニー、よりアグレッシブでロマンティックな、時には美しいコード・シーケンスに対してアヴァンギャルドなサウンドなど、まったく異なるテクニックに基づいていました。チェロとピアノのための「On Fire」やヴァイオリン、チェロ、ピアノのための「ベルリンの壁」、「フロンティア」など、このスタイルの作品は、ファンクのリズム、前衛、ミニマルなテクニックを取り入れています。
 それ以来、ヒースはジェームズ・ゴールウェイ、ナイジェル・ケネディ、パーカッショニストのエヴリン・グレニーのために主要な作品を書いています。ゴールウェイは、フィルハーモニア管弦楽団と指揮者のレナード・スラットキンとフルート協奏曲「フリー・ザ・スピリット」の初演を行いました。ヒースがケネディのために作曲したヴァイオリン協奏曲「Alone At The Frontier」は、聴衆からスタンディングオベーションを受けましたし、グレニーのための作品、アフリカン・サンライズ - ソロ・パーカッションとオーケストラのためのマンハッタン・レイヴは、大衆からも同様に熱狂的に受け入れられたが、イギリスとアメリカでの初公演ではマスコミからも高い評価を受けています。
 最近ではスコットランドで初演された「The Rage」を作曲し、「マッド・アバウト・ミュージック」シリーズ「ンスピレーション」というエピソードでヒースを取り上げました。ヒースはプロのフルート奏者でもあり、スティングがアメリカでリリースしたシングル「Mad About You」のソロ・フィーチャーや、ギタリストのドミニク・ミラー、ジェリー・ダマーズのフリー・ネルソン・マンデラ、マイケル・ケイメン、ロバート・ロックハート、バリントン・プルンとの様々なソロ録音など、幅広いスタイルでレコーディングを行っています。

 

※ お知らせ

○ 遠藤紗和さんのCD発売

ネットでも各社予約受付中です(ネット発売日は11月1日です)

 

○ 松枝晶子展【Special thanks】

 

 

ヒース、デイヴィッド/アヴァロンへの帰還

Heath, David RETURN TO AVALON

<解説>

 ヒースはイギリスの多彩な才能を持つ現代のフルーティスト、作曲家です。この題材は13世紀初頭にプロヴァンス地方で異端カタリ派=アルビジョア派に対して、これを撲滅するアルビジョア十字軍を発動させ、2万人以上の犠牲者を出した宗教戦争です。「アヴァロン」は架空の町のことでしょう。I.「最後の歌」序奏は、13世紀のカタリ派の旋律を、フルートとアルト・フルートがソロで始め、ノスタルジックな響きの哀歌が二重奏で冴えわたります。やがてピアノのトレモロがどよめき、2本のフルートが五音音階の分散和音、ダブル・タンギング連打で激しく叫びます。再び、哀歌に戻り静かに歌われます。II.「人間の激情(炎)」は6/8の中世舞曲を素材に書かれ、2人の笛吹きが、力強いオスティナート・バス上にピッコロとアルト・フルートで二重奏を奏でます。始めはユニゾンで、後に並行5度進行で中世舞曲を繰り広げます。4度累積和音の動機とクラスターによる激しい衝撃を経て、III.「光の息子のアヴァロンへの帰還」に繋がります。再び静寂の中、フルートとアルト・フルートの2人の笛吹きは哀歌を奏で、激しく燃えたぎる五音音階の炎の中に不死鳥のように蘇ります。(フルート・オーケストラ版あり)(解説/佐野悦郎)