ラフマニノフ「ピアノ協奏曲2番」他 ロマン派の音楽㉖ | 翡翠の千夜千曲

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     Lang Lang - Rachmaninoff : Piano Concerto No 2 in C minor

    演奏:ベルリンフィルハーモニーオーケストラ 指揮サイモン・ラトル

 

 

 先ず最初に宣言しておきましょう。私は、ラフマニノフの支持者で擁護派あり、作品を演奏し、指揮をし、編曲作品を演奏者に寄与したりしてもきました。

 ラフマニノフは自国の聴衆にも世界的にも熱狂的に迎えられながら、自国の評論家には評判がよくありませんでした。前衛に背を向けた作風を保守的で没個性的として酷評したのです。ヴャチェスラフ・カラトィギンやレオニード・サバネーエフといった批評家は、「グローヴ音楽辞典」には「作り物めいた大げさな旋律」、「単調なテクスチュアー」などとこき下ろし、そのうち彼の作品は消えるだろうとまで書かれていたほどです。こんな私的な意見を載せること自体が辞典の意味を成していません。

 ハロルド・C・ショーンバーグはこうした風潮を非道なまでのスノビズムだとして批判し、「作曲家に関して重要なのは、いかに個性を発揮したか、いかによく自己を表現したか、着想がどれほど強固か、であり、これらの点でラフマニノフは大半の作曲家よりも優れている」と主張した。デリック・クックが「演奏家や聴衆からの熱狂的な支持ゆえに、プッチーニとラフマニノフは否定的な評論の集中砲火にもかかわらず我々の音楽体験の中に生き続けている」と述べたように、『グローヴ音楽辞典』1954年版の予言は現実のものとならなかった。

 俗にいう「一般聴衆」を小ばかにする風潮は昔からよくあることで、芸術家や物書きの部類をけなすことで自分の立場を優位に際立たせようとする不逞の輩はどこにでもいるのです。彼らは、励ましたりすることができない上に、どのようにすれば彼が良い作曲家になれるかを示す言葉も方法も知りません。評論家は、ショーンバーグのようにすべきです。指揮者や指導者もそうです。彼を伸ばすためにはどういう援助が必要かを教えるべきなのです。「ばか」「おたんこなす」などと言い合っているその辺のガキ(失礼)の言い争いと同レベルの内容です。ラフマニノフ自身は次のように言っています。

 私は作曲する際に、独創的であろうとか、ロマンティックであろうとか、民族的であろうとか、その他そういったことについて意識的な努力をしたことはありません。私はただ、自分の中で聴こえている音楽をできるだけ自然に紙の上に書きつけるだけです。…私が自らの創作において心がけているのは、作曲している時に自分の心の中にあるものを簡潔に、そして直截に語るということなのです。

 そういう風に素直に自分のことを語っているのに、批判を加えると言うことは「お前の音楽は意味がない」ということであり、存在自体を否定していることに他なりません。言わば人権侵害です。

 さて、第1交響曲が全くうまく行かず、例の口汚いキュイが「エジプトの七つの苦悩」に例えて容赦なくこき下ろしたりしたものですから、ラフマニノフは立ち上がれないほど打ちのめされ、神経衰弱(今は別の名前が付けられています)や自信喪失に落ちっていました。彼は3年ほどの間苦しみますが、この辺から少しずつ光明が見えてきます。

 やがて創作への意欲を回復した彼は1900年から翌年にかけて、2台のピアノのための組曲第2番とピアノ協奏曲第2番という2つの大作を完成させた。特にダーリに献呈されたピアノ協奏曲第2番は、作曲者自身のピアノとジロティの指揮により初演され、大成功を収めた。この作品によってラフマニノフはグリンカ賞を受賞し、作曲家としての名声を確立した。

 今日は、彼が再起をかけた「ピアノ協奏曲第2番」を聴きたいと思います。余りに有名で、今更記事を書くのが躊躇われるほどですが、これと第2番の交響曲は欠かせないでしょう。ピアノ協奏曲第2番ハ短調作品18は、1900年秋から1901年4月にかけて書かれました。第2楽章と第3楽章が1900年12月2日に初演された後、全曲初演は1901年11月9日に、ソリストに再び作曲者を、指揮者には従兄アレクサンドル・ジロティを迎えて行われました。

 その美しさと、屈指の人気を誇るロシアは勿論世界に誇る作品として人々から愛されていることは言うまでもありません。ラフマニノフのピアノ曲と同じで難曲として知られています。相当高度な演奏技巧が要求されますが、第一楽章冒頭の和音の連打部分では、ピアニストは一度に10度の間隔に手を広げなければなりません。(私は大丈夫です)手の小さいピアニストの場合はこの和音塊をアルペジョで弾いていることが多いです。

 

 楽曲の構成は伝統的な3楽章構成である。

第1楽章

ピアノ独奏による導入部

 

 

弦楽器より呈示される第1楽章第1主題

Moderato, ハ短調、2分の2拍子、自由なソナタ形式

 主題呈示部に先駆けて、ピアノ独奏がロシア正教の鐘を模した、ゆっくりとした和音連打を、クレシェンドし続けながら打ち鳴らす。導入部がついに最高潮に達したところで主部となる。

 主部の最初で、オーケストラのトゥッティがロシア的な性格の旋律を歌い上げるが、その間ピアノはアルペッジョの伴奏音型を直向きに奏でるにすぎない。この長い第1主題の呈示が終わると、急速な音型の移行句が続き、それから変ホ長調の第2主題が現れる。第1主題がオーケストラに現れるのに対し、より抒情的な第2主題は、まずピアノに登場する(ちなみにピアノ独奏は、第1主題の伴奏音型から移行句まで、急速な装飾音型を奏で続ける。これらの音型は、しばしばと誤解されやすいが、ロシア正教会の小さな鐘を模している)。

 劇的で目まぐるしい展開部は、楽器法や調性を変えながら両方の主題の音型を利用しており、この間に新たな楽想がゆっくりと形成される。展開部で壮大なクライマックスを迎えると、恰も作品を最初から繰り返しそうになるが、再現部 (Maestoso) はかなり違った趣きとなる。ピアノの伴奏音型を変えて第1主題の前半部分が行進曲調で再現された後、後半部分はピアノによって再現される。そして第2主題は移行句なしで再現され、入念にコーダを準備する。

 第1楽章においてピアノ独奏は特異なことに、第1主題の主旋律の進行を、完全にオーケストラ、特に弦楽合奏に委ねている。ピアノの演奏至難なパッセージの多くが、音楽的・情緒的な必要性から使われており、しかも伴奏として表立って目立たないこともあり、聴き手にピアノの超絶技巧の存在を感付かせない。ピアノはオーケストラのオブリガート的な役割に徹することで、時には室内楽的な、時には交響的な印象を生み出すのに役立っている。

第2楽章

Adagio sostenuto, ホ長調、4分の4拍子、序奏付きの複合三部形式

ピアノ独奏の上にフルートが入る第2楽章の第1主題冒頭

 盛り上がった第1楽章が終わると、それと好対照をなす緩徐楽章が弦楽合奏のppで神秘的な始まりを告げる。弦楽合奏の序奏は、ハ短調の主和音から、クレシェンドしながら4小節でホ長調へ転調しピアノ独奏を呼び入れる。このピアノによるアルペッジョは1891年に作曲された六手のピアノのための「ロマンス」の序奏から採られている。この部分はピアノの右手が1小節に三連符4個の塊が3つで組まれている。そのリズム上に2拍目からフルートの甘美で息の長いメロディーが入ってくる。その後4分の4拍子と2分の3拍子が混じりつつ、最初フルートで奏でられたメロディーがクラリネット、ピアノ、ヴァイオリンへと受け継がれていく。テンポが上がり、ピアノが第2主題を思い悩むかのように短調で奏でる。ファゴットや低弦、更にフルートとオーボエなどと絡み、ピアノがメロディーを奏でて2回盛り上がる。その後ピアノソロになりテンポも上がり華やかな分散和音の後オーケストラと絡んで、ピアノのカデンツァへと進む。その後tempo Ⅰで最初の3連符4個の塊が3つのピアノの音型になり、その上に最初のメロディーをヴァイオリンが奏でて再現する。その後、美しく短い終結部に入る。ここではピアノの右手が和音を波のように揺れて奏で、最後はピアノだけで2楽章を優しく静かにまとめる。

第3楽章

Allegro scherzando, ハ短調 - ハ長調、2分の2拍子

 最初に聞こえるホ長調の旋律は、循環形式によって第1楽章から引き出されている。その後の主たる楽想は明確な2つの対照的な主題を持ちながらも、前楽章で用いられたモチーフを断片的に使ったり、2つの主題を融合するなど、既存の形式にこだわらない自由な書法で書かれている。副主題をもつ変奏曲、あるいは変則的なロンドとも解釈することが出来る。

 スケルツォ的な気まぐれな性格が認められる第1主題と、より抒情的な第2主題が交互に現れ、最後のピアノのカデンツァの後にハ長調で全合奏 (Maestoso) で二つの主題が融合されて盛り上がるシーンは圧巻で、高い演奏効果をもたらす。

 ラフマニノフは2年後に結婚しますが、その後結婚した妻に捧げられた「ライタック」「ここは素晴らしい」を聴きたいと思います。ライラックは、のちに自身でピアノ独奏曲にも編曲した作品です。これらの曲には、ラフマニノフの精神状態が感じられるほどに安らいで、幸せな様子がうかがえます。

 

                                  

           Sergei Rachmaninov: Lilacs, Op. 21/5

 

    

         Rachmaninoff - How Fair this place

       Marc Verter accompanies soprano Ilona Domnich

 

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ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番

辻井伸行×佐渡 裕 (アーティスト)  Format: Audio CD