ブラームス「ヴァイオリンソナタ第一番」《雨の歌》 | 翡翠の千夜千曲

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        Regenlied op. 59 Nr. 3 (Live)

 

    

”雨の歌”に込められた想いとは…【ブラームス/ヴァイオリンソナタ 第1番 ト長調 ≪雨の歌≫ (Brahms:Violin Sonata No.1)

 

 

 

 あれほど恋しがっていた青空を余りの暑さに一時は疎ましく思い、雨の今日は青空を愛おしいもののように思っています。

 

「雨の歌」  クラウス・グロート

 

雨よ降れ、そして私が子供の頃に、

雨が砂の中で泡立つように、

その時に見た夢を

再び現しておくれ!

 

鬱陶しい夏の暑さが

新鮮な涼しさを物憂げに争うとき、

そして輝く木の葉が露に濡れ、

苗床の青さが濃くなるとき。

 

小川にはだしで立つことは

何と気持ちの良いことか!

そして草原に歩み入って

清水を両手で掬うのだ。

 

あるいは熱い両の頬を

冷たい雫で冷やさせる。

そして新しく生まれた香りある風を

幼い胸に当てさせる。

 

濡れた花が露を滴らすように

心は息づき開いている。

香りに酔える花のように、

天の露に濡れている。

 

すべての滴りは冷たく震え、

心臓の鼓動にまで染みこむ。

天地創造の聖なる息吹が

隠れた生にも染み込む。

 

雨よ降れ、私たちが子供の時に

戸口で歌った古い歌を

目覚ましておくれ!

外では雨滴が高くなっていたあの時に!

 

あの雨の、濡れた甘いざわめきを

私は再び聴きたいのだ

幼い子どもの恐怖感のう。ちに、

私の魂を雨で潤したいのだ。

 

 子供の頃は、少々の雨など気にしなかった。遊んでいるうちに体温で濡れた衣服も乾いてしまう。大きな葉の上には、水滴が丸い粒になって転がるのが愉快だし、木々の葉から細かい雨水が滴り落ちるのが涼しい。雨上がりのむっとする草いきれは幸せの匂いがする。ましてや、この詩が読まれたのは大陸の乾いた空気の中に降る雨、どんなにか心地よいのだろうか。

 この詩人は、雨をすべての生にまで染み込ませる恵みの雨。体温を奪う雨ではなく、ほてった頬と心臓まで冷やしてくれる優しい雨を謳っています。そして、裸足で掴む水の感触や匂いまで感じることができます。

 1879年に作曲されたヴァイオリン・ソナタ第1番「雨の歌」ですが、ブラームスにとって大きな意味のある曲です。この題名はブラームスがつけたものではありません。ブラームスが1873年に作曲した歌曲「雨の歌」作品59-3のメロディを第3楽章で使用したことでこの名で呼ばれるようになりました。
 「雨の歌」を作詞した詩人グロートは、ブラームスと同じ北ドイツ出身で、ブラームスのいとこと同じ学校に通っていたとことを知って、深い親交をもちました。「雨が降ると裸足になってはしゃいだ子どもの頃を歌う」だけではなく、その時感じた幸福感や人を思う気持ちを表現するもので、ヴァイオリンソナタの中でも、詩のもつ爽やかな雰囲気が生かされています。
 ブラームスは数多くの歌曲や合唱曲を書きましたが、特にこの詩を気に入り、別のメロディを付けたものを1曲、さらに低地ドイツ語(出身地の方言)で書かれた同じ詩にも1曲、作曲しています。
 ヨハネス・ブラームスは、1833年にドイツのハンブルクに生まれ、7歳からピアノを学び、早いうちから演奏家としての才能を開花させました。20歳のころに、作曲家兼音楽評論家として活躍していたロベルト・シューマンに出会い、彼が音楽雑誌でブラームスを激賞したことから、ブラームスは本格的な作曲活動が始まります。シューマンはブラームスと出会った3年後に亡くなってしまいますが、シューマンの妻で世界的ピアニストだったクララ・シューマンや子どもたちとの交流は終生続きます。
 ブラームスがクララ・シューマンを愛していたことは有名な話ですが、「雨の歌」は、もともとクララの誕生日にプレゼントした歌曲でした。その6年後、ブラームスが名付け親になっていたシューマンの末子、フェリックスが病気で亡くなってしまいます。そのことがきっかけになって「ヴァイオリンソナタ第1番」は生まれたのです。ブラームスは、クララのお気に入りだった歌曲「雨の歌」をモチーフに取り入れた「ヴァイオリンソナタ第1番」を完成させました。きっと、亡くなったフェリックスを思い、そして傷心のクララを気遣い、この曲で慰めようとしたのでしょう。この曲を聴いたクララは、「天国へ持っていきたい曲」と言ったそうです。

※ この辺の話は、微妙に違う話があちこちに色々な方が書いていますので、お時間のある時に 

 お楽しみください。

<楽曲の構成>

第1楽章 Vivace ma non troppo

ト長調、やや凝った複雑なソナタ形式による楽章。軽やかで抒情的な雰囲気をもつ第1主題(譜例1)と、より活気のある第2主題(譜例2)で展開される。音楽批評家の大木正純は、ズーカーマン盤の解説書(UCCG-9579)にて、この第2主題を「ブラームスの書いた最も印象的な旋律のひとつ」と評している。

譜例1

\relative c'' {
\time 6/4
\key g \major
r2. r4 d-.(_\markup{\dynamic "p" \italic "m.v."} r8 d8-.) | d4.( c8_[ b g]) d2. | r4 e-._( r8 e-.) e2( g4) | r g-._( r8 g-.) g2( b4) |
}

譜例2

\relative c' {
\time 6/4
\key g \major
fis4_\markup{\italic "con anima"} fis4.( g8) a4( e fis) | g( b4. d8) d2( a4) | b4(\< d e)\! a(\> fis d)\! | cis4( b4. e8)_\markup{\italic "cresc."} e2( a,4) |
}

第2楽章 Adagio

変ホ長調、三部形式で叙情と哀愁が入り交じる緩徐楽章。民謡風の旋律(譜例3)がピアノで奏され、ヴァイオリンが加わって哀愁を歌う。第2部は葬送行進曲風の調べで、この旋律は第3部で再び回帰する。

譜例3

\relative c' {
\time 2/4
\key es \major
\partial 4 <es g>4(_\markup{\italic "poco" \dynamic "f" \italic "espress."} <d bes'>8[ <c as'> <as d f>8. <g es' g>16]) | 
<g es' g>4 <g es'>8.^( <bes~ d f>16 | <bes es g>8.) <g es'>16~^( <g es'>\< <bes d f>8 <es g>16~ |
<es g> <d bes'>8 <c as'> <as d f> <g es' g>16)\! | <g es' g>4
}

第3楽章 Allegro molto moderato

ト短調、歌曲「雨の歌」と「余韻」に基づく旋律を主題(譜例4)としたロンド。主題は第1楽章の第1主題と関連があり、また第2エピソードとして第2楽章の主題を用いるなど、全曲を主題の上で統一している。

譜例4

\relative c'' {
\time 4/4
\key g \minor
\partial 4 d8-.[(_\markup{\dynamic "p" \italic "dolce"} r16 d16-.]) | d4.( c8) es( g f es) | d4.( c8) d( es bes a) | 
g8.[(\( e16) fis8( a])\) c8.[(\(\< a16) bes8( d])\)\! | g4-.(\> fis-.)\! r
}

ウィキペディアより

 

Sonatas for Violin & Piano

Johannes Brahms (作曲), Alexander Peskanov (Piano)  Format: Audio CD